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ネコマタの居る生活 第一話

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「猫徹、ちと力を貸せい……刃気焼散!」
 それは、猫徹が彼女の手に現れた時の映像を逆再生するかのような光景だった。
 頭上に掲げられた刃が、一瞬昏い光を放ち、まるで縒りあわされた縄が解けていくように炎の渦となって辺りに拡がる。
 その炎の渦が雷光の檻を、発生源である鉄鎖さら、焼き払い、溶かし去る。
 草むらには焦げ一つ作ることのない幻の炎……だが。
「この炎……アカネコの心火か!」
 彼女の殺意がそのまま炎と化したそれは、アカネコの憎む物だけを全て焼き払う心の業火の具現化。
 まともに食らったらヘキレキなど、消し炭も残して貰えまい……慌てて飛び去ろうとする、その宙に舞った体に、何かが飛びかかった。
「な?」
「流石の貴様も、空中で回避は出来まい」
 至近に、アカネコの顔が有った。
 熾火が奥底で燃えているような漆黒の瞳。
 そこまで見た所で、顔が首の骨をへし折られるような勢いで強制的に横を向かされた……所で、ヘキレキの記憶が飛んだ。
 白手格闘術、袖撫と名付けられた技で、ヘキレキの横っ面に右の肘打ちを叩き込んで草むらの中に跳ね飛ばしたアカネコが着地と同時に走り出す。
「ミーオ!無事なら返事を致せっ!」
「あ、無事みたいですよ……気は失ってますが」
 沿道の草むらの中から、ひょっこりと透が身を起こす。
 その腕の中には、気絶して黒の子猫の姿に戻ってしまっている物の、体には傷一つないミーオが抱えられていた。
「うにゃー……もうタイヤキは良いから肉まんとけばぶー」
 夢の中ではファーストフードで大宴会中らしい。
「……そうか、風塵掌で壁だけは創りおったか」
 風塵掌は攻防一体の術、身に纏ってさえいれば、それなりに攻撃に対する防御となる。
「この馬鹿弟子が……冷や冷やさせおる」
 そう優しい口調でつぶやいたアカネコは、子猫の額をかるく小突いた。
「お弟子さんですか?」
「左様な結構な物ではない、他のネコマタが全員音を上げた挙げ句に、我に押しつけられた問題児というだけじゃ……いつまでも未熟者で困るわ」
 口では悪態をついているが、ミーオを見るアカネコの瞳は優しかった。
 そんな師弟の姿を穏やかな目で見ていた透の顔を、アカネコが見上げた。
「馬鹿弟子を拾ってくれた事は感謝いたす……だが、なぜとーる殿がまだここに居るのじゃ、早く逃げよと申したに」
「はぁ……ミーオさんに隠れているように言われてしまいまして」
 実際、研究所まで走るより、その方が安全そうでしたし。
 そう言う透に、アカネコは複雑な目を向けた。
「ふむ……まぁそれもそうか。だが、今後は我の指示に従って貰うぞ、そうでなくば、命の保証が出来ぬ」
「気をつけます……でも、これからもこんな事、続くんですか?」
 透の反問に、アカネコは眉間に皺を寄せた。
「何故テッソが出て参ったかは知らぬが、あやつらが、これだけ大規模に動くと言う事は、何かしら理由がある事じゃ。奴らはそうそうは諦めぬよ……それはさておきな」
「はい」
「一度研究所に戻って貰えぬか……我ももう限界じゃし、ミーオの様子も一応見たい」
「あ……そうですね、気が利かない事で」
 しゃんと立ってはいるが、確かに月明かりの下とはいえ、アカネコの顔色は尋常でなく悪い。
「こんな様だというに、久方ぶりに力を使いすぎたわ」
 こんな様というのは、どういう事なんだろう……ふと透の頭に疑問がよぎったが、アカネコの辛そうな様を見て、疑問を飲み込んだ。
(また、聞けば良いことだよね……)
 三人は、あちこち痛む体を引き摺るように、研究所へ続く坂道を登りだした。

「所長になんて言い訳しよう……」
 透のスーツは、転んだときに膝に穴が開き、上着も所々に泥が飛んだ酷い有様だった。
「まぁ、転んだとでも言っておけば良かろうよ……ふぅ」
 かなり辛そうに息を吐いたアカネコを見て、透が何か声を掛けようとした……その時だった。
 三人の背中から車の前照灯と思しき強い光が差し付けられた。
 そして、重いエンジン音。
「む?」
「なんです……マナーの悪い!」
 目を細めて振り向いた透とアカネコの眼前に、こちらに向かって暴走して来る車より遥かに巨大な何かが映った。
「こ……今度は何なんですかっ?!」
「くっ……御免っ!」
 余りの光景に呆然としていた透の腰の辺りが、凄まじい勢いで突き飛ばされた。
 細い体が半ば宙を舞うように、春の柔らかい草の褥の中に放り出される。
「うにゃっ!」
「痛っ!」
 危険続きだったお陰か、透にもアドレナリンが大分体を駆けめぐっているらしい。
 かなりの勢いで地面に転がされたのだが、さほどの痛みも感じず、透は慌てて草むらから頭を突き出した。
 その隣から、黒の子猫も顔を出す。
「……あちきの焼きそば十人前どこにやりやがった、兄ちゃん」
「夢です」
「ミーオちゃんはしんじねーぞ、あのぱらだいすこそが現実にゃ」
「こっちの現実に戻ってください……そうだ、アカネコさんがっ!」
「んにゃ?ししょーがどうした……って師匠っ!」
 ミーオがアカネコの気配を感じて上空を見上げる。
 つられて見上げた透の視界にも、その姿は目に入った。
 巨大な鉄の塊に跳ね飛ばされて、宙を舞う真紅の着物を纏う小柄な姿。
 妙にゆっくりとその姿が夜空に弧を描き……静寂の中、とさっという軽い音と共に、草むらに落ちた。
 ちりん。
 別れ際に美濃川が彼女の首に付けた首輪の鈴が、虚ろに響く。
「アカネコさんっ!」
「てんめぇっ!」
 ぶっ殺してやるっ、そう叫びながら、ミーオがネコマタ少女の姿を取りながら、その鉄の巨獣に駆け寄る。
「風塵掌……奥義!」
 散華の時に見せた以上の、ミーオの怒りその物のような漆黒の竜巻が彼女を中心に巻き起こる。
 暴風が周囲を荒れ狂う……歩くのも困難な風の中、それでも透は這うように歩き出した。
 死ぬわけ無い……あんな偉そうな化け猫が……。
 そう信じながら……自分に言い聞かせながら、透は無意識のうちに溢れてきた涙をそのままに、アカネコの元に歩き出した。
 
6

「神気結晶」
 ミーオの両手には、今や爆発寸前の風のエネルギーが集められていた。
 ネコマタの気の力を使い、かき集めた台風以上のエネルギーを無理矢理に凝縮する。
「てめぇ……細胞の一個でも残りゃ御の字だと思いやがれよ」
 ミーオがそれまでのお気楽さの欠片も見られない酷薄な口調で呟く。
「風塵掌 奥義……千鴉風葬!」
 暴風の力が解き放たれる。
 異常な気圧が産み出した荒れ狂う真空の刃が、その軌道上にあった、機巧兵の残骸を更に切り刻む。
「そのままふっとばせーーーっ!」
 黒い嵐がその巨獣に叩き付けられる。
 だが、その暴風の中でも揺らぐ事もなく、その巨獣は、意外に繊細な手を複雑に組んだ。
「にゃんだと、呪印を……?!」
「雷叉蜂箭」
 その獣の手から雷撃が四方八方に放たれ、黒い竜巻を切り裂き、そのエネルギーを消し飛ばした。
「うそにゃろ……」
 一応、あちきの使える技じゃ、多分最高の破壊力の技だちゅーに。
「生憎ウソでも何でもないぞ、生意気なネコマタよ」
 目の前の鉄の獣から、優越感に満ちた声が降ってきた。