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ネコマタの居る生活 第一話

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「そう言えば、お主はアレを知らぬか。先の大戦後にようやく一人前になった我等の期待の若手じゃ」
 一人前と言うには、ちと……いや色々不安はあるがのう。
「すご……い」
 あのロボットを吹っ飛ばすという事は、この少女は台風以上の風を操る事が出来るのか。
「どーでー、兄ちゃん、今ならこのミーオ様のボディーガード権が店屋物五人前、たったの五人前でご提供でぇ、しかも、今ならにゃんと、可愛いあちきと暮らす権利までセットで付いてくるじぇ」
 どこかの通販番組ばりの売り込み方に、透が耐えきれず噴き出した。
「そこまで付けてくれなくて良いですよ……店屋物五人前って、日当ですか?」
「一食につき五人前に決まってるにゃろが……つーか、目玉商品をいらねーとか、地味に傷つくにゃー」
「それは申し訳ないですが……お願いしていいですか」
「セット商品の一部キャンセルは認められてにゃーぞ」
「……じゃ、セットで」
 なんとなくだが、凄い詐欺商法に引っ掛かったような気がしなくもないが、成り行き上仕方ない。
「うしゃー、そんじゃ契約成立にゃ……契約書いるけ?」
「当面口頭契約で、帰ったら契約書作りましょうか?」
「あちきは、にくきゅー押すだけにゃから、書面は全部にーちゃんが作ってにゃ」
「はぁ……」
 そういう横着言うなら、契約書が必要かとか、聞かないで欲しかった。
「けっけっけ、よし、これでとーめんのメシとねぐら確保にゃー……ってと」
 獲物を前に舌なめずりする猫のような表情で、ミーオは眼下で姿勢を立て直そうとうごめく機巧兵達を見下ろした。
「ほんじゃ、給料分働いてくっか……にーちゃんはその辺に隠れてろや」
 ふわり……ミーオの体が、まるで風に舞上げられる羽根のように高く宙を舞う。
「あちきの本領は格闘」
 月を背にしたミーオが、火箭より早く急降下し、獲物達に襲いかかる。
「良くみとけにーちゃん、安い買い物だったって教えてやるじぇ!」
 駄法螺を吹きながらも、ミーオは既に呼吸を整えていた。
 気合いと共に、溜めた力を解き放つ。
「風塵掌」
 呟きと共に、ミーオの両手両足に竜巻が巻き起こる。
 その体に向けて、一斉に火箭が放たれた。
「そんなヘロ矢、無駄にゃ、無駄……竜鱗」
 風塵掌は、その身に風を纏う技だが、それを千変万化させる所に、ミーオの術の奥義はある。
 ミーオの体が昇竜のような竜巻に包み込まれ、その身に迫った火箭を全て巻き込んだ。
「竜気導引……」
 その爆発的に膨らませた嵐を、鋭い呼気と共に、全て右手に収める。
「喰らってスクラップになりゃーがれ……」
 もはや機巧兵にはミーオに向けて火箭を放つ暇はない。
積まれた人工知能の命令に従って、近接戦闘用にアームに取り付けられている銃剣を展開しはじめた機巧兵のボディに、竜巻を纏う掌打が叩き付けられた。
「散華!」
 打撃と同時に解き放たれた無数の風の刃と、火箭の破片が、掌打で抉られた傷を更に拡げ、その体を一瞬で無数のくず鉄に変えてその辺りに吹き散らす。
「ちっ、にゃんだよ、鉄っぽいから固ぇかとおもったら、とーふで作ってあんじゃねーのか、このガラクタ」
 その呟きを耳にしたアカネコが失笑する。
 やれやれ、この娘……まだ己の破壊力に気が付いて居らぬようだな。
 機巧兵が脆いのではない……ミーオの攻撃能力、中でも散華の破壊力が高すぎるのである。
 あんな物、まともに叩き付けられたら、強靱な外殻を持つ古いタイプの主力戦車すら一撃の下にスクラップにされるだろう。
「ちと、コスパわりーな」
 まぁ、実戦で使ってみたかったし……良とするけ。
 ぼやくミーオに、展開し終えた銃剣を振って、機巧兵が襲いかかる。
「とろくせーんだよ……後のねーちゃん含めてよ」
 遅いというが、その動きは、世界に公開されている二足歩行タイプのロボットのそれより、かなり速く、戦場に投入してもおかしくない程である。
(こんな物、開発されてたんだ……)
 自分や美濃川だけが極秘の物を開発している訳ではない……頭で判っては居ても、実際に目の当たりにすると、それは透にとっては衝撃的な物であった。
 機巧兵と交戦しながら、ミーオはちらりと周囲に目を向けた。
電撃の檻に捕らえたアカネコを警戒しつつ、機巧兵のフォローをしようというのか、視界の片隅に、手裏剣を構えてこちらを狙うテッソの戦士を捉える。
(乱戦に手裏剣投げ込ませる程、ミーオちゃんは間抜けじゃにゃーわ)
 右手で銃剣を構える手を捌きつつ、ミーオの左手が、斬りかかる機巧兵の体にピタリと当てられる。
「風塵掌、鬼灯」
 左手に纏わせた風が、今度は真空の牙となり、機巧兵の体の重要部分をそっくりえぐり取る。
 ぐらり……一気に機能停止させられてしまった体が揺れる。
「よえー……遊ぶならやっぱ、テッソのねーちゃんのほーがおもしろそーだにゃ」
 右から襲いかかってきた機巧兵など、もはやまともに相手をする気も無いらしい、なんとミーオは尻尾でその体を一撫でした。
 その軌道をトレスするように、その鋼鉄の体がすっぱりと切り裂かれ、地面に転がった。
「風塵掌 鎌風……あちきの体は全部凶器だと思ってくれていーぜ」
 にまり。
 成程化け猫である、可愛い顔が月明かりと凄愴な笑みの為に、ぞっとするほどの鬼気を帯びる。
(残り……四体)
 自らの小柄さと、機巧兵の体を上手く利用して同時に相手取る事をさせないミーオの動きに翻弄されているのは機巧兵だけではない。
「ええい、ちょこまかとっ!」
 ミーオの速さに、狙いすら定まらないヘキレキが苛立たしげに罵るのに、アカネコは皮肉な目を向けた。
「アレに手裏剣を当てるつもりなら止めておけ、やるだけ無駄じゃぞ」
「うるさい、黙ってろ!直接当てる必要など……私には無いっ!」
 ヘキレキが、雷火を纏う手裏剣を一斉に投じる。
「うにゃ物が当たっけ、あほネズミ」
 そのヘキレキの動きは見えている、ミーオは機巧兵の体を盾にしようと、その体の影に滑り込む。
 その動きにヘキレキは会心の笑みを浮かべた。
「いかん!ミーオ、飛べ!」
 だが、そのアカネコの言葉も僅かに届かなかった。
 手裏剣が機巧兵の背に全て突き立つ。
 それは、ミーオの狙い通りの事であったが、その手裏剣の持つ力は、ミーオの想像を超える物でもあった。
 手裏剣が白熱した光を放つ。
「にゃ?……やば!」
 流石と言うべきか……不穏な気配を感じたミーオが機巧兵から飛び退る。
「風塵掌!」
 だが、それは僅かに遅かった。
 ミーオが、集めた風の力を解き放とうとするより先に、手裏剣が周囲の機巧兵を巻き込みながら爆発四散した。
「にゃーれー」
 ミーオの小柄な体が、爆風をモロに喰らって夜空を舞う。
「これが雷獣狂奔だ……油断したな馬鹿猫め」
「くっ……あの、馬鹿弟子がっ!」
 やはり、実戦のキャリアの差は大きい……才能はミーオの方が有っただろうが、何度もアカネコと刃を合わせ生き残ってきたヘキレキの力はやはり侮れない。
 ミーオがでてきたお陰で稼いだ僅かな時間は、彼女に多少の力を返してくれている。
 アカネコがその僅かな力を振り絞るように、猫徹を握る右手に力を込めた。
 限界が近いが……まだだ、まだ。