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ネコマタの居る生活 第一話

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 二足歩行ロボットに関しては日本が特許を取りまくってしまった分野故に、仕方ない部分もあるが、特許回避を考慮して開発された、その特徴的な動きに見覚えがあった。
 明日あたり、少し聞いてみるかな。
 この観察眼を立派と見るか、緊張感が無いというべきか。
 透は伏せたまま、アカネコに向かって意外な程の速さで迫る多数のロボット達に目を凝らした。
 朧な月明かりが、機巧兵と呼ばれたそれらが手にした武器を鈍く照らし出す。
(だ、大丈夫なんでしょうか)
「力を失ったのはお互い様じゃろうが」
 低く呟いたアカネコが、迫るロボット達を眺めて冷笑を浮かべた。
「少しはそのカラクリも精巧になったようじゃが……協定に縛られたそれで我に及ぶとでも思ったか?」
 アカネコは静かに右手を開き、一つ深呼吸した。
「刃気焼結!」
 開いた右手を中心に、凄まじい炎が噴き出す。
「アカネコさん!」
 彼女が炎に包まれたかと思ったが、不思議なことに、その炎は彼女の髪にも身に纏う着物にも燃え移る事も無いらしかった。
(もう……何が何だか)
 流石妖怪、と納得するしか無いんだろうか。
「参れ……」
 燃え盛る炎が、まるでたっぷりと溜められていた水の栓を抜いた時のように細く鋭く渦を巻きながら、彼女の右手に集まっていく。
「猫徹!」
 裂帛の気合いと共に、彼女がその右腕を横一文字に振り抜くと、そこには冴え冴えとした輝きを放つ……
「包丁?」
 刃渡り20cm程の、本格的な刺身包丁が握られていた。
 確かに良く切れそうではあるけど、その派手な演出にしちゃ、出てくる武器が所帯じみてないかい?
 敢えて言われると、やはり些か恥ずかしいらしい、アカネコは正面を向いたまま、不機嫌そうな声だけを透に返した。
「……我が身の大きさを考えよ、この辺りが取り回すには適当じゃ……第一これは紛れもなく長曽根興正が、旨い刺身を食わんが為に直々に打った包丁じゃぞ、そこらの偽虎徹より余程に品は確かじゃ」
「はぁ……」
 須崎君は知らないようだが、長曽根興正が打った虎徹と言えば、切れ味と美しさと頑健さを兼ねる、大業物十二振りに数えられる名刀中の名刀であり、真物ならば、全て大名道具と言われた物である。
 その彼が打った包丁ならば、それもまた良い物には違いない。
「余裕だなアカネコ。機巧兵、一斉に掛かれ!」
 覆面からの指令で、ロボット達の動きに速さが加わる。
「ふん……」
 軽く鼻を鳴らして、アカネコはごく自然な動作で、右手に構えた刺身包丁を下段に構えた。
 その小さい体にのし掛るように、正面と左右に展開していた機巧兵達が同時に襲いかかる。
 避けようとも、攻撃しようともしないアカネコの姿に、思わず透が声を上げようとする。
「余裕という前に、少しは我の危機感を煽ってくれるような敵を連れて参れ……」
 ヒィン……
 鋭い刃に断たれた空気が微かな悲鳴を上げた。
 透の耳には、その音しか届かなかった。
「ふ……っ!」
 アカネコが、目にも止まらぬ速さで前に立った機巧兵を左手で殴り飛ばした。
 いつの間に断たれたのか、さながらダルマ落としのように、上半身だけが水平に飛ばされる。
 開いた腕を、どこか滑稽なプロペラの玩具のように回転させながら、その体がボウガンを構えていた別の群れを巻き込むように叩き付けられた。
 その彼女の動きで時間が動き出したかのように、最初の一撃で逆袈裟と唐竹に切り割られた左右の機巧兵が、真っ二つになって、同時に地面に転がった。
 アカネコが纏う真紅の着物の袖が翻り、さながらそれらが振りまいた鮮血のように、夜を彩る。
「幾ら五十の年月を隔てたとはいえ、我が力……忘れたわけではあるまいがっ!」
 更にアカネコが、残った機巧兵の下半身を、手裏剣を投げようとしていたヘキレキに向かって蹴り飛ばす。
 予想を超える速度で迫る鉄塊は、投擲姿勢に入っていたヘキレキに回避出来るような代物ではない。
「く……雷獣一叫!」
 覆面の姿から甲高い声と共に閃光と轟音が迸り、凄まじい速度で飛来した機巧兵の体の残りに叩き付けられた。
 残された機巧兵の体が更に四散し、周囲にまき散らされる。
「おのれっ……化け猫め!」
 罵り声を上げながら、不自然な体勢のまま手にした手裏剣を、機巧兵を爆散させた際に立ち上った靄の中に投げ込む。
「左様な物で我が止まるか!」
 一息に間合いを詰めたアカネコが、その破片の靄を引き裂くように猫徹を縦横に振い、その身に迫った手裏剣を弾く。
「む?」
 さらにもう一歩踏み込んだ跳躍から、ヘキレキの脳天に猫徹を叩き付けようとしたアカネコが、何かを察知したように微かに唸って、左手で何かを弾いた。
 最初の投擲から僅かにタイミングをずらして放たれた釘型手裏剣が、アカネコの足許に転がる。
 その弾いた左腕から、今度は袖の色ではない、鮮血が一筋地面に滴った。
「二拍子か」
 最初に投じた手裏剣に紛れるように第二射を放つことで、初撃をかわしたと思った相手を抉るための手裏剣術。
 ヘキレキから視線と殺気を離さないようにしながら、アカネコは傷口を一瞥した。
(毒か……)
 念の入ったことだ。
「焼浄」
 静かな呪の言葉に彼女の傷口が淡く蒼い炎を帯びる。
 毒素が失われ、傷口が塞がれば勝手に消える浄化の炎を、その腕に宿す。
 機巧兵の残りは三体、その後に逃げ込んだヘキレキがアカネコに嘲笑を向けた。
「油断だったな、剣聖……腕が鈍ったか?」
 くすっと黒髪の猫耳少女は、その可憐な顔立ちに似ない冷笑をヘキレキに返した。
「全くじゃ、お互い平和ぼけはしたくないのう……所でそなた、髪を切ったのか?」
 アカネコの言葉に、慌てたヘキレキが顔に手を当てる。
 さらっとした短髪と若干尖り気味の、だがこちらも可憐な少女の顔に直接手が触れた事に狼狽したのか、ヘキレキの顔が赤く染まる。
「そんな、馬鹿な」
「全くじゃ、馬鹿な事をしたのう、前のおかっぱの方がその耳には似合いであったに」
 そう、その髪の間から覗く耳は。
「ね、ネズミ?」
「左様、あやつらはテッソ(鉄鼠)族と申す、我等の仇敵よ……」
 透の言葉が聞こえたのか、アカネコは前を向いたまま、忌々しそうにそう呟いた。
 透の目に、月明かりにクッキリしたシルエットを見せる、丸い耳が見えた。
(伝統の一戦だったのか)
 古今、洋の東西を問わない宿敵同士の構図は、どうも妖怪になっても変わらない物らしい。
「……いつの間に私の覆面を」
「なに、欠伸のでるような手裏剣術だったでな、一本拝借して投げ返してやったのじゃが」
 二拍子を受けて慌てたとは言え、顔面を捉え損ねたは、我の未熟の証。そう呟きながら、未だ蒼い炎を宿した左手を猫徹の柄に添えて、アカネコは八双の構えを取った。
「慣れぬ事はする物ではないな、やはり我はこちらで相手致すとしようか」
 そう言いながら再度間合いを詰めようとするアカネコと、手裏剣を構えるヘキレキ、それを守るように動き出す機巧兵が同時に前に出た。
 
 
「仕事明けのお茶は格別に美味しいです」
「いつ飲んでもコーラは旨い」