LCACがやってくる
福岡防衛施設局の「説明会」はまず寄船郷という戸数52戸の部落から始まった。その日の夜、渕康裕さんから電話が入った。
「寄船郷の説明会で寄船全戸でLCAC反対を申し入れたよ。」「えっ、全戸で?渕さん、出席してたの?」「うん、全部聞いてみようかと思って。別に何とも言われなかったよ。」「わかった、明日、郷長に会ってみる。」
全戸で?本当だろうか。本当だとすればLCAC反対を表明した最初の地域ということになる。 寄船郷長は署名集めの時一度会っている。長く関西でサラリーマンをして最近退職して戻ってきた人だという。
翌日、電話を入れてから会った郷長は意外なことを私に聞いた。「津田さん、請願書と要望書と申入書はどう違うんでしょうかね。」「あっ、それ、今から出すんですか?」
聞いてみると彼は全戸を招集してLCAC反対を確認して、文書で町に出そうとしているところに「説明会」が開かれたので、とりあえず口頭で伝えたのだという。私は是非請願書にするように説得した。私たちの請願書と重みが全然違う。それが出ればほんとに勝てる可能性もある。
そして郷長は寄船は現在既にLCACの被害を受けている唯一の地域なのだ、と言った。寄船は佐世保港内に突き出た形をしている。佐世保市の現在の駐機場から港外に出るたびごとに巻き上げるしぶきが飛んできて塩害をもたらしている。特産品であるゆで干し大根が売り物にならなくなった人もいる。これがもっと近くに基地が出来て現在の倍の12機が走り回られたら大変なことになる。自分たちは小さな部落だが、「小指の痛み」をみんなにわかってほしいのだ。
「ところで西郷の役員は何故反対しないんでしょうかね。」「会われたんですか。」「ええ、一緒に反対してくれるようだいぶ前に申し入れに行ったんですけどね。役員会で話し合うと言ったきり何もなくて。」「私がうちの地区の役員に聞いたところでは、ちょっと前に役員会が開かれたけど、LCACの話は何も出なかったそうですよ。しかもですね、郷長は以前私に、西郷、東郷、寄船郷は歩調をそろえなくてはいけない、他の地区が反対していないのに西郷だけ反対するわけにはいかない、と言ったんですよ。それに私たちが出した郷独自の住民投票の申し入れにも、役員会で検討すると言ったきり、全く検討していないんです。」「それじゃあ、意図的ですかね。」「私はそう確信してますけど。」私は本気で腹を立ててそう言った。
作品名:LCACがやってくる 作家名:つだみつぐ