LCACがやってくる
傍聴席からドアを開けたとたん、報道陣に囲まれて私は前に歩けなかった。また失敗した。今度は負けたときのコメントを考えていなかった。
あとでその時の私を見ると、髪は乱れたままだし、表情はうつろだった。「とても残念です」という意味の短いコメントをしゃべった。考えてみると他に言うべき事がなにもないのだ。今後のことを聞かれて「メンバーと相談します。」と答えたけれど、心の中では「もういやだ。なにもしたくない。」と考え続けた。
家に帰り、たまっている畑仕事を少しだけした。
夕食のあと、もう電話も鳴らなくなった頃、私はひとりで倉庫に立った。じゃがいもも玉ねぎもない時期だから、倉庫は暗くがらんとして冷え切っていた。
両方のこぶしを握った。「ちくしょう、悔しいよ。」声に出してつぶやいた。涙を止めることはできなかった。
作品名:LCACがやってくる 作家名:つだみつぐ