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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 亡くなった光樹と沙那は霧沢とルリの古くからの友人。だから霧沢は会社を急遽休み、何はさておき葬儀に臨席した。だが愛莉は今日も仕事があるはず。
 愛莉にとって、光樹と沙那はあくまでも親の友人であって、この葬儀はあまり関係ない。それなのに愛莉は参列していたと母のルリが言う。

「愛莉が……、どうしてなの?」と霧沢は疑問を投げた。するとルリが霧沢の方ににじり寄ってきて、顔を覗き込んでくる。
「あなたも随分と耄碌(もうろく)して勘が悪くなったわよねえ。大輝さんは愛莉の学生時代の一年先輩なのよ、同じ美術サークルに所属していたお友達だったのよ。それが最近になってね、親しくお付き合いさせてもらっているの」
「えっ、そうなの」
 目から鱗が落ちるとは、まさにこういうことなのだろうか、霧沢ははっと気付かされた。そして娘の愛莉のことが気掛かりとなり、「と言うことは、二人は結婚することまで考えているのか?」と息も吐かずに問い返した。

「多分ね、その内に愛莉は大輝さんを家に連れてきて、愛莉を頂きたいと挨拶に来るかもよ」
 光樹と沙那の葬儀が終わり、ルリはこんな話しをまるで当然かのように、霧沢にさらりと伝える。
 愛莉は二十八年前にマンション内で事故死した花木宙蔵と、クラブ内で首吊り自殺をしたママ洋子の愛娘。独りぼっちになってしまった幼い愛莉を、霧沢とルリは結婚と同時に、愛莉との養子縁組を結び、養女としてもらい受けた。そして親として育ててきた。
 そんな愛莉はすでに三十歳となり、現在西陣織の新進デザイナーとして、その伝統のある文化に新風を吹き込み、立派に頑張っている。霧沢にとっては自慢の娘なのだ。

 大輝の父の滝川光樹は霧沢の友人。かって霧沢の卒業後の空白の八年間、妻ルリの貧乏生活を、未熟な画家のパトロンとしてずっと支えてくれていた。そんなことを、霧沢はそれとはなしに知っている。さらに滝川沙那はルリの高校時代の友人。
 愛莉はその二人の一人息子、大輝と恋に落ちてしまい、結婚すると言う。
 そしてルリは母として、もうすでにその覚悟をしてしまっているようだ。

 確かにこれは両家にとって喜ばしいことなのかも知れない。しかし、霧沢はどことなく釈然としなかった。
 なぜなのだろうか?

 学生時代の滝川光樹は京都で有名な画廊の御曹司で、なかなかのイケメン。そして女子学生からの人気も高かった。しかしそれを鼻にも掛けず、男としては割に純で気の良いヤツだった。
 そんな光樹は、その後の宙蔵のマンションでの消化器二酸化炭素の中毒死に。そして洋子の首吊り自殺に、桜子の愛人として関わっていたようにも思われる。

 霧沢はそんな光樹をぼやっと思い出す。