紺青の縁 (こんじょうのえにし)
そして今回、保険金の受取人を息子の大輝として、光樹は沙那と一緒に冬の山道から谷底へと落ちて行った。
警察はそれを事故前の電話やメールのやり取りの状況から判断して、心中と断定するには無理があるとし、自動車事故と結論付けた。
しかし、これに対し、霧沢はどことなく解せなかった。今さら問題を掻き回したくはなかったが、勘ぐれば心中したとも思われてくる。
そして、こんな不幸が連鎖した背後には、何か隠された因縁めいたものがあるような気がしてくる。
しかし、それが何なのかが霧沢にはわからない。だから何とも言えない。
だが、その何かがこれから愛莉の身に及んでくるものであれば、この二人の結婚に父として気が進まない。
しかし一方で、事情がどうであれ、愛莉が一人の男から真剣に愛された。その愛する人と一緒となり、共に人生を歩んで欲しいものだとも願うのだった。
霧沢の気持ちは実に複雑で、正直揺れた。これが娘を思う父親の気持ちというものなのだろうか。霧沢はそんなことを考えながら、冷々たる川の流れを視界に入れている。
それは漠然と眺めているだけで、その流れに焦点を合わせているわけではない。ただ茫然とその前で立ち竦(すく)んでしまっているのだ。
ルリは、今霧沢が何を考えているのか、また何を迷っているのか、きっと見透かしてしまっているのだろう。
「あなた、愛莉の気持ちを大事にしてやって。宙蔵さんとの愛が実らなかった洋子だって、自分の娘が愛する人と一緒になることをきっと願ってるわ。だから、賛成してやって」
ルリがそんなことを耳元で囁いた。霧沢はこのルリの養母としての願いに、考えが行きつ戻りつする。
そしてしばらく沈黙していたが、霧沢の危惧の念はすでに自動車事故だったと結論が出てしまっている。世間ではもう解決済みなのだ。霧沢はそう思い直して、一言だけを返す。
「祝ってやろう」
そして冷え切ったルリの手を取り、少し足早に歩き始めるのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊