紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢には確固たるアリバイがあった。
また当然ルリにもアリバイがあった。
しかし、ルリの場合、それは偶然のことなのだろうか、ルリはその時間帯に友人でもあり光樹の妻でもある沙那と、桜子が乗るこだまとは反対方向に走る下りのこだまに乗車していた。
それは最近流行りの宿泊ホテル付きこだま往復旅行パッケージ。これで二人は、東京で開催された高校の同窓会に前夜出席していたのだ。
そしてその翌日、東京からゆっくりと二人で京都へ帰ってきた。時間帯として、事件はその途中で起こった。
ルリと沙那が乗った新幹線は、東京駅・十二時五六分発の新大阪行きこだま六五七号。京都駅には午後四時三八分に到着する。
桜子はこれとは反対に熱海へと、上りのこだまに乗っていた。
そして名古屋駅を過ぎ、一駅先の三河安城駅近辺から次の豊橋駅までの間で殺害されたと言う。そして豊橋駅到着前に発見された。
この事件が起こった時間帯、ルリと沙那は一体どの辺りを走っていたのだろうか。時刻表から確認すると、三河安城駅より東、つまり東京寄りの浜松辺りを西へと向かって走るこだま内にいたことになる。
また警察のアリバイの裏取りで、二人が東京駅の十九番線ホームのキヨスクで買い物をした。そして、そこから六五七号のこだまに乗車した。そんなことをキヨスクの店員がよく憶えていたのか、そう証言した。
それに加えて車掌や車内販売員によって、東京駅を出てすぐに、また名古屋駅辺りで指定された座席に座っていたことが確認された。さらにルリも沙那も、二人とも互いに同席していたことを申し述べた。
このようにして、ルリと沙那をも含めて、すべての知人や関係者のアリバイは成立し、〈老舗料亭・女将・新幹線こだま内塩化カリウム注射殺人事件〉は藪の中へと入って行った。
その後、通り魔事件としての観点からも捜査されたが、その解決は難航している。
犯人が捕まらないまま、あっと言う間に二週間の時が過ぎ去ってしまった。街の商店街ではクリスマスを前に、ジングルベルのメロディーが賑やかに鳴り響き始めていた。
そんな頃のことだった。
滝川光樹と沙那の夫婦が観光の時期外れではあったが、多分鮮魚や蟹を買い求めてのことだったのだろう。日本海に面する若狭へとドライブに出掛けた。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊