紺青の縁 (こんじょうのえにし)
新聞には〈老舗料亭・女将・新幹線こだま内塩化カリウム注射殺人事件〉と派手に見出しが踊っていた。
霧沢はとりあえずさらさらと一読し、その犯行が複雑そうで、「うーん」と唸り声を上げてしまった。
その内容とは、およそ次のように書かれてあったのだ。
老舗料亭・京藍の女将、花木桜子(五十八歳)は、京都が紅葉で賑わう季節も過ぎ、保養のためか画廊経営の滝川光樹と熱海への温泉旅行をする予定だった。
しかし、光樹は仕事との折り合いが付かず、同伴できなかった。
それでも桜子は、折角取った予約のためか、骨休めにと一人出掛けた。
京都からは最近隠れた人気のある新幹線こだま号。
それはいつも空いていて、乗り換えなしでゆっくりとした旅が楽しめる。
桜子は、京都駅・午後二時〇五分発のこだま六六二号に乗車した。
名古屋駅(午後二時五八分発)を過ぎ、そして次駅の三河安城駅を午後三時十一分に時間通り発車した。
そして、次の豊橋駅(午後三時二七分着)辺りでその遺体が発見された。
その殺害場所は、遺体がカーテンの閉められたグリーン車の化粧ブース内にあったことから、そのブース内での犯行か、もしくはその周辺と思われる。
そして死亡推定時刻は、名古屋駅から豊橋駅までの間と推察される。
さらに三河安城駅で、その車輌に数人の乗降はあったが、その犯行の目撃や遺体の発見がなかったため、三河安城駅後の三時十一分から豊橋駅着の三時二七分の時間帯の可能性が高い。
また死因については未だ確定していない。
しかし、致命傷には至っていないが、後ろから鈍器で殴打された形跡があり、一旦気を失った模様。
他に、その化粧ブース内には、西洋で安楽死に使用される塩化カリウム、その薬品の入った注射器が落ちていた。
また首には、絞殺しようとした痕跡も見られた。
不確定ではあるが、捜査当局は犯人が桜子に塩化カリウムを静脈注射し殺害した。
その確度が高いと見ている。
しかし、現在捜査当局は犯人を必死に追っているが、未だ捕まっていない。
また一方で、知人や関係者への事情聴取が順次執り行われ始めた。
新聞はこのような内容で、センセーショナルに報じていた。
そして、そこに書かれてあった通り、一週間後に古い友人として霧沢とルリにも警察から呼び出しが掛かってきた。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊