紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢は二十年前に京都駅のホームでルリにプロポーズした。そして当時、ルリは画家になるために、桜子から援助を受けていたことをそれとはなしに知っていた。
霧沢は結婚すると約束した以上、ルリの生活すべてをも霧沢がバックアップする責任を負ったと覚悟を決めた。そのためか、それ以来桜子の話題をあまり口にすることはなかった。
だが今、ルリの口をついて出てきた古い友人の名前、それは桜子。
噂では、宙蔵の事故死の後、老舗料亭・京藍を女手一つで盛り上げて、今は大繁盛していると聞いている。
そして一方、現在小説サークルに所属し学生生活を謳歌している息子の遼太、その友人の一人が純一郎。その男の子が桜子の息子だと言う。
霧沢はじっくりと考えを巡らす。
そしてつくづくと思うのだ。確かにルリに言われてみれば、奇妙な話しだと。
「その純一郎君って、遼太と同級生ということは、宙さんが死んだ後、二年経って出来た子なんだろ?」
霧沢はズバリ訊いてみた。
「その通りよ」と、ルリは澄ましている。
「だったら誰の子だよ?」
最初そっぽ向いていた霧沢の質問が止まらなくなってきた。
「それがわからないのよ。だから……奇妙な話しなの」
ルリが今度は威張ってる。
「じゃあ、光樹の子か? だって、洋子が首吊り自殺した時に、伊豆に桜子と不倫旅行に行っていた仲ということなんだろ。うーん、やっぱり光樹の子か」
霧沢は咄嗟に思い付くまま吐いてしまった。
「あなた、光樹さんはそんな人じゃないわ、だって知ってるでしょ、しっかり者の沙那が横に付いているのよ、そんなこと許さないわよ。伊豆の不倫旅行だって、あれは誰かの作り話しよ。洋子が自殺した時、警察は光樹さんと桜子の旅行を不倫旅行って一度も言ってないわよ。ただ何かの用事で旅行に行ってただけだわ。だって、あの時ね、沙那は全然慌ててなかったでしょ。それに、今も仲良くやってるよ」
ルリが高校時代の友人、沙那を一所懸命庇う。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊