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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 霧沢とルリの結婚記念日のプレゼントとして、愛莉が初作品の金襴緞子の壁掛けを贈ってくれた。
 そしてそのお返しにと、霧沢は愛莉に宙蔵の遺品である〔青い月夜のファミリー〕の絵を渡した。
 こんな出来事があって、四ヶ月経った秋も深まり始めた頃のことだった。その日は月末で、霧沢はオフィスに残って遅くまで仕事をし、疲れて帰宅した。そして一っ風呂浴びて、ルリが用意してくれた夕食をビールを飲みながら食べていた。

「あなた、今日ちょっとね、奇妙なことがあったのよ」
 妻のルリが神妙な顔付きで話してくる。「そうか?」と霧沢は気のない返事をする。ルリはそれを気に掛ける風でもなく、「遼太って、小説サークルに入ってるんですって、あなた知ってた?」と続ける。
 涼太は男の子、少々放っておいても良いのではないかと、自分の学生時代だった頃と同じようにある程度放任主義で育ててきた。そのため霧沢は父ではあるが、息子の遼太が一体何をしてるのかさほど気にもしなかった。それに下手に口出しすれば、親子喧嘩にもなる。
「ほおー、あいつ美術サークルじゃないのか、小説サークルってね」
 霧沢は親子ながら意外で驚いた。

「あなた、あの子はね、私たちとはちょっと趣向が違うみたいよ」と、ルリは少し不満そうだ。
「まあいいんじゃないか、特に才能があるわけでもないし、好きにやらしておけば」
 霧沢はそう言いながらテレビのニュースから目をはなさない。そんな霧沢の態度が気に入らないのか、ルリはテレビのスイッチをブチッと切って、「違うのよ、今日ね、そのサークルの合宿の打ち合わせだとか言ってね、友達を四、五人連れて来たのよ」と言う。霧沢はもう観るものがなくなり、消えたテレビの前で手持ち無沙汰となる。
「ふうん、遼太が友達を家に連れて来たんだね、まあいいんじゃないの」と、またまた気のない返事をしながら新聞に手を掛けた。
 するとルリはその新聞をさっと取り上げ、「あなた、ちょっと私の話しを聞いてちょうだい」と睨み付けてくる。こうなってしまえば、妻の話しを聞かざるを得ない。

「そのお友達の中にね、純一郎君と言う子がいてね、……、その子、誰の子供さんだと思う?」
 ルリがそう質問し、霧沢の顔をじっと覗き込む。
 霧沢は、息子の友達の純一郎君と言う子が誰の子かと突然尋ねられても、そんなことわかる訳がない。しかし、霧沢はこういう会話も夫婦のコミュニケーションの一つかと思い、「例えば、政治家の子供だったりしてね」と冗談ぽく返した。
 それを耳にしたルリはまるで勝ち誇ったように、「違うわよ、ようく聞いてちょうだいね」と声のトーンを一段と落としてじらすのだ。
「おいおいおい、そんなもったい付けるなよ、頼むから早く言ってよ、お願い!」
 霧沢はこれも夫婦の戯れの一環かと思い、少し大袈裟にせっついてみた。それに対し、ルリは充分間を取って、その後に一言だけ口にする。
「桜子よ」