紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢は、いつぞや三人で修学院離宮を訪ねた時、ルリと沙那がべったりと引っ付いて、見学グループの一番後方で、ずうっと話し込んでいた様子が目に浮かんできた。そんな仲の良い友達を思う気持ちが、ルリから充分伝わってくる。
「じゃあ、純一郎君に、お父さんはどなたですかと訊いてみれば良かったのに」
霧沢は他人事のようにそう吐いてしまった。
「そんなこと訊けないわよ、だって桜子は、宙蔵さんが亡くなってからずっと一人よ、だからシングルマザーなのよ。他人の私が息子の純一郎君に、そこまで立ち入ったことは訊けないわよ」
ルリがこう話し、後はムッとする。
だが確かにそうなのかも知れない。そんなこと、当の本人に面と向かって聞けるわけがない。
「ああそうだね、だけどホント奇妙な話しだよなあ。まあいいんじゃないか、桜子も自分の息子が俺たちの家に遊びに行ったことを、その内に知るだろうから。何かあれば、連絡でもしてくるよ、この話しはここまでにして放っておこう」
霧沢はこう結論付けた。そして、ルリのグラスになみなみとビールを注いでやる。
「そうね、そうしときましょうか」
ルリはそう言って、そのビールをぐいぐいと飲み干すのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊