紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢とルリは同じ美術サークルに所属していた。
その頃の二人の共通の友人は花木宙蔵、桜子、滝川光樹だった。
またそれ以外に、ルリの友達は沙那だった。
そして、愛莉の母の洋子は霧沢の女友達だった。
その洋子は、当時霧沢の下宿の近くのスナックでアルバイトをしていた。
時は流れ、霧沢は卒業後友人たちとの縁を切り、仕事で海外へと飛び出した。
それから八年の月日が経ち、霧沢が京都に戻ってくると、花木宙蔵と桜子は結婚していて、老舗料亭の京藍を引き継いでいた。
一方、ルリのルームメイトで親友となっていた洋子は、祇園のクラブのママとなり頑張っていた。
宙三と桜子の夫婦は不仲だったためなのか、宙蔵とママ洋子は恋に落ちた。
そして、その間に愛莉が生まれた。
父の宙蔵は愛莉の認知を洋子に約束をしていたが、それは不幸にも果たされなかった。
残念なことだが、霧沢が三十歳の時の六月に、宙蔵はマンションの密室で消化器二酸化炭素の急性中毒により亡くなってしまった。
さらに、非常に悔やまれることだが、愛莉の母の洋子は、年が明けて四月にクラブ内で首吊り自殺をした。
こんな不幸で、独りぼっちになってしまった幼い愛莉を、霧沢とルリは結婚すると同時に養女として迎えた。
霧沢はここまですべて包み隠さずに愛莉に伝えた。
愛莉にとって、特に実母の洋子の首吊り自殺、その事実は残酷なものだった。しかし、愛莉はいつか知っておくべきことだと霧沢は思っていた。
当然のことだが、愛莉は辛そうにしている。しかし気丈にも、「お父さん、話してくれてありがとう」と答えてくれた。
それに霧沢は念を押すように、「愛莉、これだけは伝えておくよ、どういうことがあっても、我々は愛莉の父と母だよ。だから愛莉がこれからも幸せになって行くためには何でもするし、そして幸せになることをいつも願ってるんだよ」と話し聞かせた。
愛莉はこれをじっと聞きながら涙を零している。そして、その涙を溢れるるままにして沈黙している。
しかし、しばらくして一言だけ悲しそうにぽつりと呟くのだ。
「なぜなの?」
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊