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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 愛莉が養女であることを本人に特に隠してきたわけではない。ある日突然に、愛莉が自分の出生のことを知って動転しないように、小さい時から折りにふれて話してきた。
 それは詳細には語らなかったが、実の父母は自分たちの友人だと。そして、その友人は不幸にも亡くなり、単に養父と養母として、愛莉を育ててきたのだと伝えてきた。
 だが一方で、愛莉の気持ちが歪まないように、愛莉には真剣に向き合ってきつく躾け、また褒め、笑い、怒り、泣き等の感情も隠さず、その若い人格の人間味ある情操を育んできた。

 しかし、それは唐突のことだった。愛莉が「感謝の気持ちで一杯なの」と言ってくれた。この言葉が霧沢とルリの胸にじーんと沁み行き、本当に嬉しい。だが霧沢は若干複雑な気持ちで「そうか」と返し、しばらく考える。
 十九年前の春の陽光うららかな昼下がりに、大きな樫の木の下で、花一杯に包まれながらすやすやと眠っていた愛莉。あの幼くて可愛かった愛莉を、今、目の前にいる一人の女性として成長した愛莉に重ね合わせる。
「そうだなあ、お父さんたちの結婚記念日は、愛莉にとっても、我々の家族になってくれた喜ばしい記念日なんだよね」
 霧沢はそんなことをぼそぼそと呟いた。そして、「愛莉はもう立派な社会人になったのだから、一度きっちりと愛莉の出生について話しておいた方が良いかなあ? なあルリ、お母さんはどう思うの?」と、いきなりではあったがルリに聞いてみた。

 ルリは涙を拭きながら「そうね、愛莉ちゃんさえ良ければ……、愛莉ちゃんは、どう?」と質問を愛莉に振り、じっと見つめる。
「お母さん、私大丈夫よ、厳しく育ててもらったから、お陰様で強くなったわ。だからお父さん、本当のことをもっと教えて」
 愛莉はしっかりとした口調で返してきた。その言葉からは、真実をきっちりと知る覚悟を決めたことが窺い取れる。
 霧沢は「うん、わかった。じゃあ愛莉に話そう、いいな?」と確認し、お茶をごくりと一口飲んだ。それから「はい」と愛莉が頷くのを見て、妻のルリに「間違いがあったら、横から訂正してよ」と声を掛ける。
 ルリがコクリと頷く。その後、霧沢はぽつりぽつりと、約三十年前の学生時代まで遡り、何があったのかを語り始めるのだった。