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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 霧沢、三十一歳は、ルリと予定通り六月に結婚した。そして愛莉を養女として迎えた。
 その後、二人は愛莉に一杯の愛情を注ぎ、実子のように育てた。そして結婚して一年後に、愛莉に弟の遼太ができた。こうして四人家族となった。

 霧沢はとにかく一所懸命家族のために働いた。またルリは好きな絵を描くことを中断し、子育てに没頭した。その甲斐あってか、愛莉も遼太もすくすくと育った。
 光陰流水、月日の流れは早い。季節は幾度とも巡りゆき、霧沢は五十歳となった。
 結婚してからここに至るまでの十九年と言う長い年月、いろいろなことがあった。子供たちの反抗期に手を焼いたこともあった。また、ルリとの夫婦喧嘩にエネルギーを使った時期もあった。

 だが霧沢は、あの時京都駅の新幹線ホームで、ルリが「どうしても東京に帰れなかったの」と泣いたのをしっかりと憶えている。霧沢はそんなルリに応え、「これからは、辛い気持ちにはさせないから、ずっと僕はそばにいるよ。そして絶対に幸せにしてみせるから」と約束した。そして、ルリは「これでアクチャンは、本当に私の守護神になってくれたのね」と言い、霧沢は「ルリをずっと愛し、守っていくよ」と答えた。
 その誓いを果たすため、霧沢はルリにできるだけの協力をし、家族四人慎ましく、そして平和に暮らしてきた。それが報われたのか、息子の遼太はこの春に霧沢とルリとが共に過ごした同じ大学に入学し、今学生時代を満喫し始めている。
 そして、植物園のベンチですやすやと眠っていた愛莉は、同じ学校を卒業し、京都伝統の西陣織のメーカーにデザイナーとして就職し働き出した。

 新しい世界に入って行った子供たち、最初は少し戸惑いがあったようだが、すぐに慣れ、今は活き活きと通っている。霧沢はそんな姿を横で見ていて、「ああ、やっとここまで辿り着けたか」と嬉しい。
 そして季節は春から初夏へと変わり、五十歳の六月のことだった。霧沢とルリとが結婚してから十九回の春秋を経ていた。

「なあルリ、今年の結婚記念日は二人で温泉にでも行って、ここまでやってこれたお祝いでもしようか?」
 長年の子育てで奮闘してきた妻、ルリを労(いたわ)ってやりたい。
「そうね、私たちここまで頑張ってきたのだから、一度温泉にでも出掛けてみたいわ」
 リビングでこんな夫婦の会話を交わしながらくつろいでいた。そんな時だった。愛莉がつかつかと入ってきた。そして二人の前に畏(かしこ)まって座った。
 霧沢は突然何事が起こったのかと驚き、「愛莉、どうしたんだよ?」といつもの調子で尋ねた。すると愛莉は一度深く頭を下げ、「お父さん、お母さん、ここまで育てて頂いてありがとうございます。これ、結婚記念日のプレゼントです」と、突然そんなことを仰々しく言う。
 そして赤いリボンで結ばれた一つの筒を差し出すのだ。しかし霧沢にはわかっている。なぜ愛莉がこんなことをするのかが。

「ありがとう、愛莉、だけど、愛莉はお父さんとお母さんの大事な娘なんだよ」
 霧沢は少し戸惑いながらもそう言い切った。
「わかってるわよ、お父さん、正直言って、私も随分悩んだこともあったわ。だけど今は、感謝の気持ちで一杯なの」
 横にいるルリがこれを聞いて余程嬉しいのか、もう涙腺が緩み出している。