小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

紺青の縁 (こんじょうのえにし)

INDEX|72ページ/165ページ|

次のページ前のページ
 


 霧沢は今植物園の入口で、二人を結び付けた強い縁を感じながら、ルリがやって来るのをじっと待っている。
 そんな中、時は漠然と流れてはいくが、こんな時間の費やし方もルリのためだ。それだけで充分意味のあることなのだ。そして霧沢は急に思い付いたのか、どういう順路で園内を歩こうかと案内板へと歩み寄った。
 園内地図を頭にたたみ込んだ後、ふと振り返ると、遠くの方から入口に向かって歩いてくるルリが見える。ルリの方も霧沢を見付けたのか、大きく手を振る。

 しかし、その歩みは決して早くない。ゆっくりと、そしてゆっくりと、霧沢の方へと歩み近付いてくる。
 なぜならば、それはルリ一人ではなかったからだ。
 ルリは幼い女の子と手を繋ぎ、横で空のベビーカーを押している。
 霧沢は遠くからでもすぐに気付いた。その幼児が誰なのかを。

 クラブ・ブルームーンのママ洋子は「この子、愛莉って言うのよ」と言っていた。
 だが、そのシングルマザーの洋子はもういない。愛莉一人が残されたのだ。そしてまた洋子はルリのことを親友だと言っていた。
 そんなルリが幼い愛莉を不憫に思い、一日遊んでやろうと植物園のチューリップを観に連れてきたのだろう。それは充分あり得ることで、納得もできる。

 霧沢はそんなルリの愛莉への温もりある思いやりを感じ取り、歓迎の意味を込め、駆け足で二人のもとへと走り寄って行った。ルリがそんな霧沢に明るく声を掛けてくる。
「アクちゃん、お待ちどうさん。いいお天気になって、ほんと良かったわ」
 霧沢は「ああ、そうだね。今日は最高だよ」と手短に返し、愛莉の目線までしゃがみ込んだ。そして愛莉に微笑み、「今日はお姉さんと一緒なんだね、良かったね。中で真っ赤なお花を見ながら、みんなでお弁当食べようね」と話し掛けた。
 愛莉はルリの方へと寄り添い、少し恥ずかしげに「うん」と小さく頷いた。

 そんな愛莉の仕草から、どうも自分のことを憶えていてくれるのではないかと、霧沢は勝手に解釈する。そして、それでさらに気を良くしたのか、「愛莉ちゃんは、おいくつになったのでちゅか?」と赤ちゃん言葉で歳を聞いてみる。
 愛莉がきょとんとしている。そこでもう一度笑みを増して尋ね直してみると、愛莉は「みっちゅ」と言いながら小さい指を三本立てた。
「わあ、愛莉ちゃん、かちこいなあ」と、霧沢は思わず声を上げてしまった。そんな様子をそばで見ていたルリが「アクちゃん、今日はゴメンね。なにか子守りみたいになってしまうのだけど」と申し訳なさそうな表情をしている。
「別にいいんだよ、俺、愛莉ちゃんとは昔からの友達なんだから。さっ、みんなで行こうよ」
 霧沢はそう答えながら立ち上がった。そして幼い愛莉を霧沢とルリの間に挟み、愛莉の歩調に合わせてゆっくりと歩き始めた。