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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 しかし不幸が起こった。洋子の愛人の宙蔵が亡くなったのだ。それは事故死とされているが、そうでもないような気もする。
 ルリはこんな歪んだ関係をすべて払拭し、この複雑に絡み合った渦巻きから抜け出したい。そのためには守護神霧沢の虜にもっとして欲しい。ルリはそう願い、霧沢に獣のような愛を捧げた。自分の肉体を欲しいままに貪ってもらえば、きっと自分は変われると思った。

 自分の八年を忘れさせてくれるほど淫らに愛して欲しい。そして霧沢はそんなルリをたった一夜ではあったが、狂わせてくれた。ルリは現状から這い出せそうで嬉しかった。
 しかし、今までの八年間の自分の汚れを霧沢には語れない。だが霧沢はきっとそれを見抜いてしまっているだろう。

 ルリにはわかっている。霧沢は愛ではなく、単に情だけで抱いてくれたのだと。
 辛いことだが、ルリはこんな風に思い至ったのだ。
 そしてまた、霧沢をドロドロとした渦の中へと巻き込み、迷惑を掛けるのも嫌だった。しかし霧沢とのすべてが壊れてしまうのも恐かった。こうしてルリは自分の運命を短い文言に賭けてみた。
「もし霧沢君にもっと強い気持ちがあって、いつかまた逢うことがあるのなら、その時までに、私、もう少し身も心も綺麗にしておかないとね」

 置き手紙の最後に、意味ありげに書いてみた。霧沢が自分のことを本当に好きならば、そしてそこに情ではなく強い愛があるならば、これを読み、もっと真剣に、そして激しい求愛をしてくれるだろう。その結果、宙蔵の事故死まで起こってしまったこの縺(もつ)れた渦の中から、ルリを救ってくれるだろう。
 しかし、一ヶ月経っても、霧沢からはその答は出てこなかった。
「なぜなの?」
 二輪の青い薔薇がいつもそんな嘆きを、ルリに代わって呟いてくる。ルリはそんな苦しみからもう逃げ出したくなった。そしてすべてを捨てて、そこからの逃避を決意したのだ。

 ルリが考えていた永遠の愛、そこへ霧沢と踏み出すことは叶わなかった。そのため〔紺青の縁〕の絵はもう必要となくなった。
 今夜、霧沢は博多へ行くと言う。それはまるで赤い糸に手繰り寄せられるように、京都駅発の新幹線へと二人は誘導された。
 だが乗る新幹線の発車時刻は一分差。それを小さいと言えば小さい。しかし、向かう先は東と西。決して紡がれた糸とはならない。
 これは運命の悪戯なのか、それとも二人の宿命なのか。二人は単に手繰り寄せられ、そして一分の差で、まるで引き裂かれるように別々の方角へと離れて行く。
 ルリにとっては、これが八年間待った恋の結末。そう思えてならなかったのだ。

 ルリはどうしようもなく悲しかった。しかし今、ルリは自分の方へと走り来る霧沢に気付いた。
「アクチャン!」
 ルリもそう叫びながら霧沢の方へと走り出した。