紺青の縁 (こんじょうのえにし)
一分という短い時間差で、二人は別々の世界へと。そしてもう二度と逢うこともない、恋の終わりへの旅立ちになろうとしていた。
しかしその一分の時間差の中で、霧沢は人生の中で一番大事な人に、そう、ルリを選んでくれたのだ。ルリは今途方もなく嬉しい。
「やっと、なぜなのに答えを出してくれたのね」
ルリはそう思いながら、霧沢の胸の中へと飛び込んで行った。霧沢はそんなルリをしっかり受け止めて、きつくきつく抱き締める。
「アクチャン、私……私、やっぱり乗れなかったの……、どうしても東京に帰れなかったの」
「もういいんだよ。これからは、ルリを絶対に辛い気持ちにはさせないから……。ずっと僕は、そばにいるよ。そして絶対に幸せにしてみせるから」
「もう、行方不明にならないでね」
「どこへも行かないよ」
こうして、二人はしっかり抱き合って唇を重ねる。
「ルリ、……、結婚しよう」
「ありがとう。これでアクチャンは、本当に私の守護神になってくれたのね」
「そうだよ、ルリをずっと愛し、守っていくよ」
「じゃあ、証明して」
ルリが霧沢に、その証を求めてくる。
「これが、その誓いの証明だよ」
霧沢はそう囁き、もう一度ルリを強く抱き締めた。そして世界で一番、それはそれは甘くて長いキスをするのだった。
そんな二人だけの時の流れの中で、霧沢は〔紺青の縁〕の青薔薇二輪の絵を足下へ落としてしまう。ドンと鈍い音がする。しかし二人にとって、もうそんなことはどうでも良いことなのだ。
今はただただ燃えるような熱いキスに没頭している。それは互いに舌を深く絡ませ合って、二人の切れない縁を確認し合っているかのようでもある。
古都京都の晩秋の奥深い夜空に、どこまでも青白く澄み切った、しかし少し下弦に欠けた立待月(たちまちづき)がぽっかりと浮かんでいる。そんな明澄な月の光に包まれて、霧沢亜久斗とルリの赤い糸は、ここにしっかりと結ばれたのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊