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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 ホームに出てみると、向かいのホームの遠くの方にルリが立っている。ルリは下りのホームにいる霧沢に気付いたのか、小さく、しかしわかるように手を振ってきた。霧沢もそれに応えて手を振り返す。

「白線までお下がり下さい」
 その当時はまだのぞみ号が登場していなかった。最速の新幹線はひかり。その博多行き五一号の到着のアナウンスがホームに響き渡る。そして流線型の車両が静かに入ってきた。

 霧沢の方が一分早い出発だ。今、霧沢の視界がすーっとその白い車両で覆い被せられていく。
 もうルリの姿が見えない。ひかり五一号は完全に停車した。そしてドアがシュワッという空気音とともに開く。京都駅で降車する人たちが順繰りドアからマナー良く降りてくる。
 今度は乗る人たちの番だ。二列に整列していた人たちがそう慌てることもなくドアの前に群がり、順番に乗車していく。霧沢もそんな人たちの中に混じり、押されながらドアの前まできた。しかし、霧沢は乗り込めない。
「せめて一分後に出て行くひかり五〇号、東京へと帰って行くルリを見送ってやりたい」
 霧沢はなにか雷に打たれたかのように、はっとそう思った。

 明日博多では欠かせない仕事がある。絶対に行かなければならない。しかし、乗れないのだ。
 この発車時刻一分の差。たったそれだけの短い時間が、霧沢の人生にとって、一番大事な時間であるとさえ思えてくるのだった。
 霧沢はついに乗ることを諦めた。今ひかり五一号は、目の前でドアーを閉め、スイスイとスピードを上げてプラットホームから滑らかに走り去って行く。霧沢の目の前に覆い被さっていた車両はもう消え去ってしまった。

 しかし、その後には東京行きひかり五〇号が向かいの上りホームにすでに停車し、霧沢の視界を妨げている。そんな東京行きひかり五〇号も乗降が完了したようだ。そしてルリを乗せて、東京へと帰って行くために、それは発車した。徐々にスピードを増していく。

 ルリが明るく「バイバーイ!」と言い放ち、手を振っていた。そのひかりが遠くの方へと消え去って行く。
「私、京都でもう充分暮らしたわ。だから、これからは東京でお仕事を探して、画家になる夢を実現するために、もう一度出直してみたいの。新しい旅立ちよ」
 ルリはそんな張り切ったことを言っていた。そして今、そんなルリがいなくなる。