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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「だけどママね、この間初めて身体を合わせたのだけど、その後、ルリは汚れてしまっていると言ってね、俺から去って行ってしまったんだよなあ」
 霧沢はこんな調子で、ついついルリとの一夜の艶事を暴露してしまった。すると洋子は霧沢にじわじわと詰め寄ってきて、怒りを露わにする。
「アホ! 霧沢さん、何にもわかってへんのやね。多分、花木宙蔵のことを疑ってたんやろ。アイツは私のパトロンやったんよ、その証拠に愛莉を授かったわ。だからルリは、宙蔵とはまったく関係ないっチューの」
 洋子はここまで畳み掛け、きりっと姿勢を正す。そして霧沢を真っ正面に見据えて、声を落としさらに訴えるのだ。

「この際だからはっきり伝えておくわ、ルリだって、そりゃあいろんなことがあったわよ。だけど霧沢さんを待つ身が寂しい、そんな独りぼっちが女にはどうしようもなくなる時があるんよ。だって八年間よ、わかってんの、この時間の長さを、……、女は身体が疼くんよ、そんな時だけ、私が慰めて上げてたの。それでルリはね、それが霧沢さんに対しての汚れだと思い込んでしまってるのよ」
 霧沢はこんな洋子からの話しを聞いて、もう言葉がなく押し黙ってしまった。洋子は、そんな沈黙を無理矢理に破るように、さらに強く霧沢に言い切る。
「だから、ルリは綺麗なの!」

 その後、洋子はとてつもなく大きな声で泣き出し、そしてまた叫ぶのだった。
「霧沢さん、ルリを……、早く何とかしてやんなさいよ。これって、男の責任よ!」
 霧沢は何のことかわからない。「男の責任て?」と、ついつい聞き返してしまった。

「バカ! ルリは今夜の七時五三分の新幹線で、東京へ帰ってしまうわ、もう戻って来ないんよ、二人の永遠の別れなんだよ」
 洋子はこう絶叫し、より一層の大泣きをするのだった。

 霧沢には明日どうしても外せない仕事が博多であり、今夜移動しなければならない。そのために七時五二分発のひかり五一号で京都駅から出発する。一方ルリは、同じ今夜の七時五三分の五〇号で京都駅から東京へ帰ると言う。

 七時五二分と五三分の一分違いの新幹線。
 しかし霧沢は西へと、そしてルリは東へと。まったく反対方向へと、京都駅から離れて行くことになる。