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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 それはあまりにも唐突で、霧沢は「えっ、なんで? この絵って、洋子さんの友達が、好きな人に渡す絵なんだろ?」と驚きながら問い返した。
 すると洋子は「霧沢さん、ちょっとここのサインを見てみなさいよ、A/Rとあるでしょ、これイニシャルなんよ。Aは亜久斗さんのA、RはルリのRよ。この絵がどうしてここにあるのか、この間お話ししたでしょ、わかった?」と言って、じっと霧沢を睨み付けてくる。
 霧沢は言われるままにそのサインを目を凝らして見てみる。確かにA/Rとある。

「えっ、これって……、ルリが描いた絵?」
 霧沢は仰天した。なぜなら、ルリのタッチは淡い透明水彩画風のはず。その絵はあまりぼかしを利かさず、深い紺青の色で力強く描かれているからだ。
 その上に、洋子がルリのことを知っていたことが信じられない。
 学生時代、ルリは霧沢のガールフレンドだった。そして洋子は、下宿の近場のスナックでアルバイトをしていた女の子。霧沢は二人を別々に知ってはいたが、ルリと洋子が繋がっていたとは知らなかった。

「洋子さん、なんでルリのことを知ってるの?」
 霧沢は、かってのスナックでの自分の振る舞いが洋子からルリに暴かれてしまっていそうで、その絵どころの話しではなく、すぐさま尋ねた。洋子は別段驚いている風でもない。
「あらっ、霧沢さん、知らなかったん? ルリは私の親友よ、霧沢さんがいなくなっていた時にね、ルリと一緒に暮らしていたのよ。ルリは私のアパートのルームメートだったわ、ホント苦しい時代を共に助け合って過ごした仲なの。女でもね、同じ釜の飯を食べた友っていうのがあるのよ」

 霧沢は自分自身がいなかった時のことを聞かされて、「世間とは意外にも狭いものだなあ。それぞれの縁はどこでどう繋がっているかわからないものだ」と感じ入った。しかし、霧沢はその縁が不思議で、「ルリとどうして知り合ったの?」と訊いた。
「それがね、今から考えるとそうだったかなあと思うのだけどね、霧沢さんがいなくなってすぐの頃のことよ。ルリがね、私のアルバイト先のスナックにたった一人で来たんよ。その時、私たち二人でグルメ話しで盛り上がってしまってね、それから親しくなったんだけど、あれはきっと、ルリが確かめに来たのだわ、私が霧沢さんを隠してるんじゃないかってね」
 霧沢はこんな洋子の話しに「へえ、そうだったのか」としか相槌が打てない。

 一方、洋子は今さら何を驚いているのよという風な顔をして、「ルリね、ずっと誰かさんを待っていたこと、私も知ってたわよ、だけどそれが誰なのか私わからなったの。まさかそれが霧沢さんだとは気付きもしなかったわ。それをこの間ルリから打ち明けられてしまってね、ホントびっくりだったわよ」と一気にここまで喋って、霧沢の反応を窺(うかが)ってくる。