紺青の縁 (こんじょうのえにし)
今、ママ洋子から手渡された〔紺青の縁〕の青薔薇二輪の絵が霧沢の手元にある。ルリはそれを描き、二人のイニシャルのAとR、そのサインを入れた。
青薔薇の花言葉はエターナル・ラブ、つまり永遠の愛。
ルリは二人の永遠の愛を築いていくために、そしてその踏み出しをするために、今日までの八年以上の月日をずっと待ち続けていたのかも知れない。
しかし、そのためには、巻き込まれてしまっている友人たちとの複雑な渦から抜け出さなければならない。自分の身の回りのすべてを拭い去り、そこから這い上がるために、ルリはその肉体を霧沢に委ね、きっと異なった宿命を作りたかったのだろう。
しかし、ルリは霧沢がもっと真剣になってくれないと渦巻きから這い出せない、多分そう思い知ったのかも知れない。
霧沢はそんなことを思い、ルリが無性に愛おしくなってきた。今すぐにでも逢いたい。
「ママ、わかった。行く方角は違うけど、俺も出張で、同じような時間に新幹線に乗るから、とにかくルリに逢ってみるから、ありがとう」
霧沢はルリを気遣う洋子にそう約束をした。
「絶対にそうするんやで。さあ、早く行ってやって」
洋子は親友ルリのためにそう訴え、涙を拭いている。そしてその横では、幼子の愛莉が可愛い瞳で、母の洋子を心配そうにじっと見つめている。
なぜか霧沢の眼の奥に、そんな愛莉の残像がしっかりと刻み込まれた。そして、それを拭うこともなく〔紺青の縁〕の絵を小脇に抱えて、霧沢は京都駅へと急ぐのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊