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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「ゴメンね、子連れで、この子、愛莉(あいり)って言うのよ。パパは事故死したことになってしまったけどね」
「えっ、それってどういう意味?」 
 霧沢は、いきなり洋子の口からとんでもない発言が飛び出してきて、まずはど肝を抜かれた。洋子はそんなぶったまげている霧沢に、さらに無感情に続けてくる。

「あれは密室の出来事やったけど、多分、宙蔵さんは誰かに殺されたんよ。だってあの人、煙草は吸うけど、ベッドなんかで、一度も吸ったことなんかあらへんわ」
「ふうん、そうなんだ。それって警察に話しをしたの?」
「もちろんそう伝えたわよ。だけど密室内の出来事でしょ、私のような愛人の憶測なんて、結局取り上げてくれなかったわ」
 霧沢は、洋子が口惜しげに語るこんな話しに、「へえ、そうなのか、それは残念だね」としか答えられない。そして洋子は、そんな霧沢の同情に気を緩めたのか、「私、シングルマザーなんよ。パパは愛莉を認知してやろうと約束してくれてはったのに……、嘘吐かれちゃったわ」とやり切れなさそうに嘆く。

 霧沢はその幼い女の子を再度眺めてみると、どことなく花木宙蔵の面影があるようにも見えるのだ。「愛莉ちゃんて、良い名前だね、ママが付けてくれたんだね」ともう一度声を掛けた。幼児はまだ言葉をうまく喋れないのか、じっと霧沢を見つめてくるだけ。しかしその瞳は、特に霧沢を恐がる風でもなく、むしろ何か助けを求めるような眼差しだった。

「愛莉って名前は、パパが付けてくれはったんだよね」
 幼子の代わりに洋子が返してきた。そしてぎゅっと抱き締める。霧沢は「そうなのか」と声を詰まらせ、「思い出させてしまったかな、ゴメンね」と謝った。洋子はそんな霧沢の気遣いを有り難く思っているようだが、それとは裏腹に言い放つ。
「また新しいパトロンを見付けて、しぶとく生きてやるから。安心して」
 霧沢は洋子からのこんな力強い言葉を受けてか、正直ある一面ほっとした。そして一方で、「洋子は宙蔵のパトロンで、ルリはやっぱり宙蔵とは関係なかったのだ」と不埒(ふらち)なことを巡らせる。

 そんな心の動きを洋子は読み切っているのか、「もう宙蔵さんの話しは止しましょう。それで霧沢さん、忙しいんでしょ、だから端的に話しをするわ」と話題を変えた。
 そしておもむろに一枚の絵をテーブルの上に出した。それはいつぞやママ洋子が見せてくれた〔紺青の縁〕と題する青薔薇二輪の絵。それがあまりにも無造作に目の前に出されたものだから、その意外さで、霧沢はそれに見入ってしまった。そんな霧沢に、洋子が有無も言わさぬように話した。
「霧沢さん、これ、受け取って」