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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 ルリとの狂おしい一夜の情交があって、一ヶ月の月日が流れた。時はすでに晩秋の頃、霧沢の仕事の方は多忙窮(きわ)まっていた。

 ルリは「私たちの縁は、決して結ばれないものだったのかも知れないね」と置き手紙で書き残した。そんなルリとの接触はその内にと思いながらも、もうあの秘め事からコンタクトすることは途絶えていた。
 そして今夜は博多へと出張で出掛けなければならない。京都駅午後七時五二分発の新幹線五一号、その切符はすでに手元にある。霧沢はバタバタと仕事を終え、オフィスを出ようとしていた。そんな時に、洋子からオフィスに電話が掛かってきた。

「霧沢さん、御無沙汰してます。忙しいところ突然に、ゴメンなさいね」
 洋子は申し訳なさそうに話してくる。
「気にしないで、どうしたの?」と、霧沢はさらりと訊いた。すると洋子は少し低い声で神妙に返す。
「霧沢さんに大切な物を渡したいから、お店が始まる前に、ちょっと寄ってもらえないかしら」
 博多への出張で、霧沢には時間の余裕がない。しかし、ママの声のトーンからして、なにか事の重大さが伝わってくる。霧沢は京都駅に向かう途中で、クラブ・ブルームーンを訪ねることとした。

 そしてタクシーで駆け付けた祇園花見小路、そこは閑散としていた。未だ華やかな夜の様相にはなっていない。夜の蝶が乱舞する風景とはまったく違う風景がそこにはあった。
 煌(きら)びやかなネオンやサインボード、それらが目印となって、いつもならすぐにクラブ・ブルームーンに辿り着ける。しかし今日はそれらが光りを放つ前であり、クラブがどこにあるのかを見失いそうだ。
 霧沢はやっとここだと見付け出し、重いドアーを押し込んで中へ入って行った。店内は夜の艶麗(えんれい)さとは裏腹に薄暗く、異常な静寂がそこにあった。
 そしてママ洋子はそんな中にぽつりと一人、いや目を凝らして見るとそうではなかった。二歳くらいの幼い女の子と一緒に奥のシートに座っている。

「霧沢さん、いらっしゃい、こちらへ来てちょうだい」
 ママが声を掛けてきた。
「元気だった? ところで、どうしたの?」
 霧沢はそんな言葉を発しながら、ママ洋子の正面に腰を下ろした。
 さらに、その幼い子はママの娘だとすぐに見て取って、「今日はママと一緒で、いいなあ、可愛いね」と微笑んでみせた。これは冗談ではなかった。霧沢は本当にママと一緒でいいなあと思ったし、まことに可愛いとも思った。