紺青の縁 (こんじょうのえにし)
しばらくの時が流れ、今、目を醒ましたようだ。ルリが薄く目を開け、霧沢をじっと見つめる。
「なぜなの?」
鴨川での質問を、思い出したかのように繰り返す。
霧沢は、ルリが今訊くこの「なぜなの?」、それがどの「なぜなの?」のことなのかがわからない。
霧沢が八年前に突然消えたこと。その霧沢がジャズ喫茶店に突然現れたこと。そして最近では、花木宙蔵が事故死したこと。
ルリにとっては、多分「なぜなの?」が一杯あるのだろう。
「それは……、そういう宿命だったのかもな」
霧沢は答が見つからず、とりあえずそう答えてみた。
するとルリは「そう、それは宿命だったのね。そうしたら、アクちゃん、今までの宿命を忘れさせて、そして新たな宿命をちょうだい。だから、もっと思いっ切り抱いて」と迫ってくる。
霧沢はもう何も答えない。その代わりに、ゆっくりとその身体をルリに重ねていく。そしてルリの乳房を、左右が不公平にならないように、交互に下から上へと優しく撫でる。その後、ゆっくりとルリの下腹部へと手をずらしていき、指先でルリの花心に触れる。
「アクちゃん、早く忘れさせて!」
ルリが再び狂おしく悶え始め、切なく声を出して求めてくる。霧沢ももう限界なのかも知れない。ルリの真っ白な太股の間に割り込んでいった。そして霧沢自身をルリの花蜜潤う中へ、ぬめりながら押し入れる。
「ああ、アクちゃん……、もう私を壊して」
ルリの卑猥過ぎる嗚咽が洩れる。霧沢はゆっくり、そしてできるだけ深く、そんな腰の動きを繰り返す。
二人は、それぞれの肉体の局部からの大事な触感を、漏らさずしっかりと味わっておきたい。そしてその一つ一つの律動に、満たされた最高の愛を感じ取っておきたい。
二人にとっての八年の時の流れ、それはあまりにも長く、今しっかりと取り戻したい。
そのためなのか、男と女の貪欲さが極限に露わになる。そして二人は、もうすぐにやってくるであろう、その絶頂を同時に味わいたい。そのために二人はぴたりと腰のリズムを合わせる。
そして霧沢とルリはもう一度、二つの肉体を強固に同体化させる。
ルリがその奥深い局所を痙攣させる。まさにその瞬間、霧沢も、雄鮭がその至った時に大きく口を開けるように、天に向けその口を開け仰(の)け反り返る。
こうして、二人はまったく同時に、忘我の淵へと落ちて行ったのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊