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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 霧沢はママからの説明を受けて、「ふうん、青薔薇二輪か、それでその画題がね、〔紺青の縁〕ってね。確かにそういうことなのかもな」とぼそぼそと漏らし、その後はただただ「なるほどね」と頷くだけだった。そんな霧沢に、洋子は神妙な顔付きとなり、疑問をぶつけてくる。
「だけど霧沢さん、青薔薇って、世の中にはないんでしょ。私の友達は、この絵で何を訴えたいのでしょうね?」

 霧沢にはその絵の意味がなんとなく飲み込める。
「洋子さんね、青薔薇の花言葉はエターナル・ラブ(Eternal Love)、つまり永遠の愛なんだよ。それでその青薔薇が二輪並んで描かれているのだから、二人の永遠の愛って言うことかな」
 霧沢のこんなもっともらしい講釈に、洋子はじっと耳を傾けている。そして、「へえ、そういうことだったのね。それでわかったわ、友達が漏らしてたのよ、好きな人と、このように寄り添い合えれば、いいわってね」と思い巡らせているようだ。

「じゃあ洋子さん、なぜ、この絵がここにあるの?」
 霧沢は興味津津となり、思わず聞き返した。
「それはね、友達が言うのよ、現在落ちてしまっている渦巻きの底から這い上がるためには、一つの方法しかないですって」
「ふうん、一つの方法ね、それって何なの?」と霧沢はもう止まらない。
「それはね、今霧沢さんが教えてくれて初めてわかったのだけど、つまりその人との永遠の愛、その紺青の縁とやらで強く結ばれてね、それで救い出してもらわないと抜け出せない……。多分、そういうことだったんだよね」と洋子は一人頷く。一方霧沢は訳がわからず、首を傾げるだけだった。

「だけど、友達のその娘(こ)、最近もっともっと深い渦の底へ落ちて行きそうって言うんだよ。もうその渦が深くなり過ぎて、たとえ手を差し伸べてもらっても、もうそこから抜け出せるかどうか自信がなくなってきた。だから、この絵を持ち続けていてももう意味がない、だから堪らなく辛くなってきたんだって」
 洋子はここまでを続けて喋り、そして一拍おいて、「それでね、しばらくそれを目の届かない所に置いておきたいと言ってね、私に預けてきたのよ」と、やっと霧沢の質問の「なぜここにこの絵があるの?」の答を終わらせたのだ。

 霧沢はそんな洋子の熱弁に、「ふんふん」と面白がって聞いてはいたが、「その友達の渦巻きって、どんな渦巻きのことなんだろうなあ?」と、特にそれ以上気にすることではなかったが、洋子の反応を窺った。

「霧沢さん、そりゃあ私たちはまだ若いわよ。だけどね、それはそれなりに一応ここまでは生きてきたのだから、いろいろな人間関係があるのよ。そんな柵(しがらみ)の渦巻き、そのドロドロした中に私たちはいるのよ」
 洋子はこう言って、一人納得している。一方霧沢は話しが少し鬱陶(うっとう)しくなってきたと思い、「そりゃそうだね」と他人事のように返した。後は「友達からの大変な預かり物だね、それは洋子さんが信頼されているということだよ」と持ち上げた。
 洋子はその友達のことを心配しているのか、「そうなのかもね」とぽつりと呟き、しばらく何かを考えているような面持ちとなっている。

 しかしその後、小さいクラブながら祇園でママを張る洋子、営業スマイルを取り戻し、いつもの明るいママに見事に変身し直すのだった。