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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「霧沢はん、なんで知っておいやすん?」
 今度は声が低い。
「俺の勘だよ。それで、宙蔵さんて、ママのパトロンなの?」
 ママは話しの核心を突いてこられたのか、しばらく沈黙してしまった。そして一呼吸をおいて、霧沢の方にじわりとにじり寄ってくる。その後、霧沢の耳元でそっと囁(ささや)くのだ。
「そうどすえ、世間様では、そうとも言うておいやすわ」

 霧沢はそんな言い訳を聞きながら、ルリのジャズ喫茶店に飾ってあった〔青い月夜の二人〕の絵の残像が脳内に蘇る。そして言葉を選びながら、昔からの女友達の関係に戻り尋ねてみる。
「洋子さんも、苦労が多そうだね。それで、女将さんはそのことを知ってるの?」
 洋子はいつの間にか少し泣き顔になっている。そして営業モードを一旦横に置いたのか、普段の標準語に戻り、まるで絞り出すかのように呟(つぶや)く。
「桜子さんは今のところ知らないと思うわ。だけど、いいのよ、多分、添い遂げられないと思うけど……、宝ものを頂いたから」
「ふうん、宝ものをね、……、じゃあ、いいじゃん」
 霧沢はその宝ものが何なのかおよその見当はつく。ここではそれを追求するのも失礼かと思い、意味不明のままにした。

 そんな霧沢の気遣いを洋子は理解している。そして洋子はそれに甘えて、「霧沢さん、実はね、私の友達からもう一枚の青い絵を預かってるのよ。大事な絵だから、汚れたらダメだと思ってね、ここには飾っていないのだけど……、見せて上げましょうか?」と話題を変えてきた。
 これで霧沢は、洋子が〔青い月夜のファミリー〕の絵の話題を、これ以上は避けたがっていると感じた。また同時に、もう一枚の青い絵と聞いて急に興味が湧いてきた。
「その絵、どんな絵なのか、良ければ見てみたいなあ」

 ママ洋子が霧沢の要望を受けて、早速席を立った。そしてしばらくして一枚の絵を抱えて戻ってきた。
「どう霧沢さん、これ、ちょっとミステリアスで、情感があるでしょ」
 洋子がそう口にして、自慢げに見せる。

 その絵には二輪の青薔薇が描かれていた。「ほう、綺麗なブルーだね、素晴らしいよ」と霧沢は思わず声を上げた。
「こういう色のことを、紺青と言うらしいんよ。だから、この絵の画題は〔紺青の縁(こんじょうのえにし)〕と名付けられてるのよ」