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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「さっ、若ダンはん、ちょっと悩ましい話しはそこまでにして、飲み直しまひょっ。霧沢はんが、もしアテのパトロンでおいやしたら、アテ、最高どーす、かんぱ〜い!」
「ほうお、それはそれは……。だけど、オレには金と暇がな〜い、かんぱ〜い!」
 そんなレスポンスをした霧沢に、ママがきょとんとした目で見つめ返す。そして真顔となり、「ということは、霧沢さん、それって、自分は色男だということを言いたいわけ……、ウッソー!」と叫んでしまう。

「おいおいおい、洋子さん、今営業中だろ、そう簡単に標準語に戻るなよ!」
 霧沢はこうさらに突っ込んだ。
「あ〜ら、若ダンはん、そうどしたな、カンニンえ」
 ママ洋子は笑顔で謝り、グラスを高々と上げる。それにつられて霧沢もグラスをより高く掲げるのだった。

 霧沢にとっての久し振りの祇園、それはこんな弾けた一時だった。そして霧沢は、洋子の店、クラブ・ブルームーンを後にした。
 外はケバケバしい夜の蝶たちが群舞している。しかし、なぜか霧沢はとぼとぼと歩いているのだ。

 八年振りに再会したルリ。
 苦労してそうなママ洋子。
 そして話題となった老舗料亭・京藍の女将の桜子。
 さらに桜子の旦那であり、洋子のパトロンとなっている花木宙蔵。

 多分霧沢が京都に戻ってくるまでのこの八年間、この四人たちにはいろんなことが一杯あったのだろう。そして、そこには宙蔵が描いたいう青い二枚の絵。さらに洋子が先ほど見せてくれた、洋子の友達が描いたという絵があった。
 そして、それらはまるでそれぞれの作者の宿命を嘆いているかのように、その青い輝きを霧沢に放ってきていた。

 特に洋子が預かっていた青薔薇二輪の絵。それは〔紺青の縁〕と名付けられていた。霧沢はその深い青さが気に掛かる。
 その絵が暗示する永遠の愛。霧沢にとって、それがどういうものなのかを知る術はない。だが、その絵の作者は、その永遠の愛で想う人と結ばれたい、そうきつく訴えてきているようにも思える。
 そして霧沢は「俺も誰かと、絵にあったような紺青の縁で、いつか結ばれることってあるのかなあ」としみじみと思うのだった。

 だが一方で、そんなこととは裏腹に強く予感するのだ。
「その内に、そう、洋子が話していた渦巻きに、きっといつか、俺も絡まっていくことになるのかも知れないなあ」と。