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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「そうでっしゃろ、今度マミちゃんに、チーママになってもらったんえ」
 ママからそう紹介されたマミは少し大柄だが、細い身体に淡いピンクのロングドレスをしなやかに身に纏っている。そして、ブロンズ色掛かった長い髪が柔らかくカールされ、ふわりふわりと揺れている。
 肌は透き通るように白く、胸元のパールのネックレスが見栄え良く似合っている。その上に、瞳はくりっとし、大人の雰囲気の中にも純な乙女の香りがする。まるでシネマに登場した新人女優の雰囲気がある。

 霧沢はこんな美人を前にして、照れ隠しなのか「ほーお、新任係長さんか、よろしゅうね」と挨拶をした。それを聞いたチーママは「マミで〜す、これからも御贔屓(ごひいき)に」と言い、後は普段の関西系娘さんに戻り、「うふふふふ」と笑う。
 霧沢はその様子を見て、「アンタは、ほんとはコメディアン系なんだろ」と突っ込んでみた。それを受けてか、その美人マミはその大柄な身体の胸を思い切り前へと張り出させ、「アッタリ前田のクラッカー!」と古典的オヤジギャグで返してきた。
 そんな様子をじっと見ていたママ洋子が「この子、顔は可愛いし、スタイルも抜群だし、ヅカ系美人なんだけど、おつむは中本新喜劇さんなんえ。引き抜かれそうなんだから」と囁いてきた。
 それにマミが「イヤダー! ママ、ばらさないでよ」と叫ぶ。こんな会話を切っ掛けとして、場はより盛り上がっていく。
 そして席へと着き、スコッチの水割りを友にして、ケタケタと笑い合う一時が流れゆく。

 そんなくつろぎの中で、霧沢は見付けるのだ。それは華やかな店の奥に、前回にはなかった一枚の絵を。
 しかし、まったくの仰天だ。
 それはついこの間ジャズ喫茶店で見た絵、そう、〔青い月夜の二人〕、それと同じようにそれも酷(ひど)く青い。
 絵はブルーな海に一艘のヨットが描かれている。だが喫茶店で見た絵とは違っていた。

 ヨットは帆に夜風を一杯に受けて、水平線の向こうにあるであろう目的地へと、まるで希望を膨らませて快走しているようにも見える。そして最も〔青い月夜の二人〕から異なっている点、それはその人数。そこには三人が乗船していた。しかも大人の男女の間に、なぜか幼子が描かれているのだ。

 要は、煌びやかでまた妖しさもある夜のクラブには似使わない家族揃ってのセーリングの絵だ。霧沢の興味が急に湧き出した。
「ママ、あの絵、どうしたの?」
「霧沢はん、目ざとおすな、あれ〔青い月夜のファミリー〕って言うお題なんどすえ。えげつのう青おっしゃろ、アテのお客はんがくれはったんえ。あないにきばった青色、ほんによろしおまっしゃろ」
 ママは営業を続けているのか、祇園花街言葉を駆使して実にねちっこく答える。されどこれを受けて、霧沢はすかさず突っ込んだ。

「そのお客さんて、京都の老舗料亭、京藍の主人、花木宙蔵だろ」と。
「まっ!」
 いきなり具体的な名前が飛び出してきたことに、ママは驚いたのか仰け反(のけぞ)った。