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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 それは八年振りにジャズ喫茶店で霧沢とルリは再会した。
 それをきっかけとして、ルリは誰にも言えない宙蔵との汚れた男女の縁を切るために、密室殺人のストーリーを組み立てた。
 そして、宙蔵を邪魔だと思っていた桜子と龍二に実行させた。

 さらに、その事実を知った洋子を、今度は高速道路を使ったアリバイ工作を考えだす。
 そして桜子と龍二に働きかけ、首吊り自殺を偽装する方法で殺害させた。

 その後、年月を経て、新幹線こだまのアリバイ工作を、老舗料亭・京藍を自分のものにしたい龍二に、その息子を通じ教えた。
 そして、すべての悪行を知ってしまっている実行犯の桜子を殺めさせた。

 最後に、何もかもの過去を消すために、光樹と沙那に罪の意識を植え付け、二人を心中に追い込んだ。
 そして残る龍二にすべての罪を被せた。

 四つの出来事の真実、それは絡まり合い捻れた縁から抜け出すために、ルリがシナリオを書いた。
 そして直接的には手を掛けず、友人たちに一つ一つ執行させて行った。
 その一方で、妻ルリ自身が最後まで幸福に生き残れるように、生涯を掛けて霧沢をナビゲートしてきた。

 こんなおぞましい、そして恐ろしい勘ぐりが霧沢の脳裏を掠(かす)めて行くのだった。

 しかしここはまず、妻からの要求、「これからも仲良くしてね」にすぐさま応えなければならない。
 霧沢はきりっと直立不動となり、今しがたまでの忌まわしい不安を払拭させ、ルリへの愛の気持ちを握った拳(こぶし)にぎゅっと凝縮させた。それから何はさておき、「はい、これからも仲良くさせて下さい」と真摯に返した。

 しかし、霧沢の胸の内はそう単純なものではなかった。
「四十年前、女子学生のルリはフレッシャな青いレモンのようだった。夏になるとホットパンツから伸びた白くて長い足で、青春を一人占めするかのように跳ねて歩いていた。そして縁あって知り合った友人たち、ルリはその中で誰よりも一番幸せになりたいときっと願っていたのだろう」
 霧沢は学生時代のルリのことを思い出した。

「しかし、卒業後の俺がいなかった八年間、ルリは宙蔵を始めとする友人たちとの歪んだ縁の渦巻きに巻き込まれてしまい、身動きが取れなくなった。そして幸せを独り占めするためには、そんな過去を、ルリは一番消したかったのだろう。……、だから、ここに至る四つの出来事、それらは妻のルリによって、夫の俺も含め、友人たちも見事に操(あやつ)られた結果なのだ。つまり、真のシナリオライターはルリであり……、首謀者だったのだ」