紺青の縁 (こんじょうのえにし)
ルリはかって〔紺青の縁〕と題し、永遠の愛が花言葉の二輪の青薔薇を描いていた。
今二人を大きく包む山並み、それは同じ色調。そう、紺青にその色合いを深めていっている。霧沢はルリとともにその色に溶け込みながら、ついつい思いに耽ってしまう。
「ルリと学生時代から今日まで歩んできた人生、それは二輪の青薔薇を探す旅、その花言葉通り、エターナル・ラブ(Eternal Love)、つまり永遠の愛を見付ける旅だったのかも知れないなあ。しかし、それはまだ終わっていない、そしてこれからの第二の人生でも、ルリと一緒に青薔薇を探す旅は続いていくのだろうなあ。……、こういう男と女の関係を、ひょっとすれば、紺青の縁で結ばれた二人と言うのかも知れないなあ」
霧沢はこんな漠然とした思考で、棒立ちとなってしまっている。そんな時に、ルリが霧沢の脇腹を、学生時代にふざけ合った時のように指で突っついてきた。
「さっ霧沢君、もういいでしょ。この渡月橋の橋の向こうまで、後ろを振り返らずに、私を連れて行ってちょうだい」
ルリは今、まるで十八歳の女学生。そう、二人の人生の原点に回帰したかのように、霧沢君と呼び、エスコートを迫った。そして霧沢の手をしっかりと握ってくる。
これで霧沢ははっと我に返り、ルリの手を強く握り返した。そして、少し大きな声で、まるで男の宣言かのように伝えるのだった。
それは四十年前の賀茂川で、ルリに触れることもできなかった純な学生の霧沢君まで戻り、その場面の映像を今撮り直すかのようにだ。
「わかった、ルリさん、ここからスタートだよ。橋の向こうにある新たな人生、そこへ君を連れて行くよ。そして、君を永遠に愛し……、もっと幸せにしてみせます」
これをしっかり聞いていたルリは、少し年老いたのだろう、目尻に皺を浮き出させ、充分その誓いの言葉に満足しているかのように、霧沢に微笑む。
「この日を待ってたわ。私のなぜなの、……、なぜ紺青の縁は見付からないのと、学生時代からずっと探したり、嘆いたりもしてきたわ。だけど今やっと霧沢君が真剣に私への永遠の愛を誓ってくれたのね」
「ああ、もちろんそうだよ」
霧沢は自分の決意が堅いことを伝えた。ルリはそれを聞き、ほっと安心したのか、本心のようなことを漏らす。
「霧沢君にはわかってもらえそうもなかった四つの出来事、少し時間が掛かってしまったけど、霧沢君はそれらをやっと咀嚼(そしゃく)し、心の奥底へと仕舞い込んでくれたのだよね。だから、もう振り返らないで。これでやっと私たちは一蓮托生、そう、紺青の縁で結ばれたことになったのよ。……、これからも仲良くしてね」
霧沢はこんなドキッとするようなルリのセリフを耳にした。
これにより、心の奥深い所に眠り続けてきた禁断の憶測が……、一瞬ではあったが蘇り、微(かす)かに脳裏を過ぎっていく。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊