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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 京都は風光る四月から風薫る五月へと季節が移ろいつつあった。
 そして八年間の空白の後、京都に戻ってきてからの初めての黄金週間が始まろうとしていた。
 そんな時に、霧沢はたまには息抜きをしようかと、オフィスの仲間たちと夜の祇園へと繰り出した。
 久し振りだったのか盛り上がり、さんざん飲み歩いた。そして最後にたった一人だけで辿り着いた所、それは祇園花見小路にあるクラブ・ブルームーンだった。

 そこのママは洋子。霧沢は彼女のことを知っていた。
 かっての学生時代に、洋子は下宿近くのスナックでアルバイトをしていた。
 貧乏学生ではあったが、年に三、四回だけは大人の気分を味わってみたくなり、トリスハイボールを飲みに行った。
 その時代から気っ風の良い洋子と馬が合い、霧沢の女友達だった。そんな洋子は、霧沢の卒業と同時にこの祇園のクラブに勤め出し、まずチーママへと昇格した。そして激しい女の競争を勝ち抜いて、若くしてついにママにまで昇りつめたのだ。

 店の様相はオオママ時代からはすっかり変わってしまったと馴染み客は言う。多分、今のママ洋子の性格が表れているのだろう。その店が醸し出すムードにはセクシアルなしつこさはなく、しっとりとした落ち着きがある。そうかと言って、素っ気ないかと言うとそうではない。
 霧沢は京都へ戻ってきてから、クラブ・ブルームーンを一度訪ねたことがある。そして今宵は洋子のことをふと思い出し、ふらっと立ち寄ってみたのだ。

「あっらぁー、霧沢はん、お久し振り。この一ヶ月、どこで浮気しておいやしたん?」
 店に入るなりママ洋子からのきつい一発が飛んできた。
「オレ、浮気なんかようせえへんで、昔から洋子さん一筋だよ。だけど、ちょっと仕事の手が遅うてね、よう逢いに来れへんねん」
 霧沢は関西弁丸出しで、つまらない言い訳をする。
「まっ、おなごはんには、お手々がお早いくせに……、このイケズ!」
 洋子はまったくのクラブ営業モードでまくし立てながら、霧沢の横腹辺りをぐいっと抓(つね)ってくる。
「そんなんやったら、もうとっくにママのパンツ洗わせてもらってますわ。それでここに住み込んで、チーパパ張らせてもらってまっせ」
 こんなアホな会話、これが互いの無事を確認し合う昔からの挨拶なのだ。

 そしてそれが終わった時に、洋子が「じゃあ、チーパパの向こうを張って、チーママさんを紹介させてもらうわ。マミちゃん、ちょっとこっちへおいない、オモロイ系若ダンはんを紹介して上げるわよ」と言って、一人の女の子を手招きする。
「は〜い、ママ」と明るい返事があり、霧沢の前にそのお嬢が進み出てきた。だが霧沢はこのマミを見て、ごくりと唾を飲み込んでしまった。
「えらいベッピンさんやなあ」
 こう感嘆するばかりで、後の言葉が続いてこない。