紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢はこの記事を読み終えて驚いた。記事の中に記載されてあるT氏は、明らかに滝川光輝のことだ。
その光樹は、桜子が新幹線内で殺害されて、その二週間後に沙那と共に冬山の谷底へと落ちて行った。
光輝が以前の事件に引き続き、また桜子の事件に間接的に絡んでいたのだ。
確かルリは、いつぞや沙那のことについて話しをした時に、「あの日、私、京都駅で光輝さんを見掛けたの。きっと沙那を迎えにきてただけだよね。事件には関係ないわよね」と心配げにしていた。それについては、光輝が沙那を迎えにきたことは確かなことだったとわかった。
しかし一方で、光輝は何も知らずに、こんなことをやらされていたのかと思うと残念でならない。
そして真由美はまた「桜子さんの死後、多分龍二が、借金の返済を光樹さんに強く迫るようになったんやろね」と語っていた。だが記事には、龍二が桜子に掛け合って、借金の一部を免除してやると言い、T氏に協力を依頼したとある。
と言うことは、龍二は後日、桜子が亡くなってしまった以上、もう免除を掛け合う人、つまり桜子はいないと居直り、光樹との約束を反故にしたということなのだ。
こうして光輝は、こんな結末になっていった自分の行動を悔やみ、またその宿命を嘆き、ついに自ら妻の沙那と共に死を決意したのかも知れない。霧沢はそう思えてくるのだった。
そして、霧沢はとてつもなく不愉快になってくる。「遼太の小説のシナリオを逆手に取って、アリバイを工作した龍二とは、なんと悪人なのだろうか」と。
しかし不思議だった。この事件の元となった殺人シナリオ、それは遼太のミステリー小説。なぜ龍二は、その小説のストーリーを知っていたのだろうか?
だが霧沢はすぐに思い出した。リビングに放ってあった遼太の小説を読み、外から帰ってきた遼太に、「これ結構面白いストーリーだなあ」と褒めてやった時に、遼太は話していた。「元は学生の頃の作品だよ、当時サークル内では人気があってね、友達によく貸し出してたんだけどね」と。
この話しで、遼太から友人の純一郎に、そしてそれからその父の龍二へと流れて行ったのだと想像できる。
と言うことならば……、果たして、母の桜子は?
きっとこのトリックを知っていたのだ。
だから桜子は、背後から殴打され気絶し、そして目を覚ました時に、その遼太のストーリーをきっと思い浮かべただろう。
そして小説のシナリオ通り、三河安城駅以降では殺されないと読み取り、目の前に殺気立って現れた沙那と真由美に「早く行ってしまいなさい」と急かせたのかも知れない。そしてその後、ほっと安心したのだろう。
しかし、その油断をついて、三河安城駅を過ぎてから桜子は龍二に絞殺されてしまう。
「これって、桜子にとって不幸なことではあったが……、これが長年の悪事の因果応報と言うことなのだろうなあ」と、霧沢はやるせなくなってくるのだった。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊