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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 T氏は、その時間帯に東京から帰ってくる妻との待ち合わせがあったためなのか、龍二の本来の意図を知らず、快く龍二の要求を引き受けた模様。
 そして指示された時間に切符の購入等をし、そのレシートを龍二に渡した。
 またコンビニでの買い物の後に、ATMの列に並び龍二を待った。
 そこへ龍二が走りきて、T氏と入れ替わり、龍二はキャッシュを引き出し、自分自身の映像を防犯カメラに残した。

 その後も龍二に対し取り調べが継続され、龍二の犯行およびその足取りは次のようなものであると確認された。
 龍二は京藍の姉妹店を東京で開くための下調査を桜子から依頼された。
 その帰りの日ではあったが、桜子がこだまで熱海温泉へ一人保養に行くことは知っていた。

 桜子殺害の計画としては、当初下りのこだまから上りのこだまに乗り移り、三河安城駅までで刺殺し、また元のこだまに戻ることを企てていた。
 しかし、このシナリオはかなり奸智(かんち)に長けてはいるが、返り血を浴びる、またこの程度では必ず謎解きされると龍二は考えた。
 そのためその逆手を取って、謎解きがされた時のために、犯行現場に絶対居合わすことは不可能と思わせる新シナリオを考え出した。

 それが三河安城駅を通過してから絞殺することだった。
 つまり東京駅でこだま六五七号に乗車し、そして元のこだまに戻るケースでは、上り六六二号の車輌内での犯行、それは名古屋駅から三河安城駅までの間だけが可能となる。
 だがそれ以降は絶対に不可能。

 したがって、どんな形であれ、もし下りのこだま六五七号に乗って京都に戻ったと偽装できれば、三河安城駅を過ぎてからの犯行は完全犯罪となる。
 そうするためには、殺害後に豊橋駅で降り、そこから元のこだま六五七号を急ぎ追い掛ける。
 しかし、名古屋駅でのぞみ三六七号へと乗り継いで後を追うのが精一杯。

 そして、最速で京都駅に辿り着いたとしても、午後五時〇一分にしか到着できない。
 ここに元のこだま六五七号より二十三分の遅れが生じてしまう。

 だが反対に、この午後五時〇一分までに京都にいたことがもし証明できれば、犯行に関わっていなかったことが成立する。
 そんな偽装工作をするために、龍二はここで協力者を必要とした。
 それが背格好が似ていたT氏である。

 そして龍二は話しを持ち掛けた。
 龍二はこの悪巧みの目的をT氏に明かさず、切符の購入と買い物、そしてATMの順番取りをしてくれたら、桜子に掛け合って、借金の一部を免除してやると協力を依頼した。
 長年の付き合いでもあるT氏は、これを深く考えず承諾し、龍二の指示するところに従ってレシートを集めた。
 またATMで列に並び、走りくる龍二へと入れ替わった。

 このようにして、午後五時〇一分以前に、龍二が京都にいたことが偽装された。

 しかし、元妻の新証言により、この偽装工作は壊れ、今回の花木龍二の逮捕に至ったのだ。