紺青の縁 (こんじょうのえにし)
これらの意味するところは、遅くともこだま六五七号で京都へと戻ってきた証拠である。
そうでない限り、その時刻に京都駅の自動販売機やコンビニで買い物はできないし、そしてATMでのキャッシングは不可能。
したがって、それらの時刻記録や映像が示すように、その時間帯に龍二自身は京都にいたため、刺殺にしろ絞殺にしろ、三河安城駅以降で、桜子を殺害することは物理的に不可能なことだと主張していた。
つまり、この事件の焦点は、桜子は三河安城駅と豊橋駅間で絞め殺されたという事実であり、その現場に誰がいられたのかということだった。
もし犯人が龍二で、犯行後豊橋駅で降車し、名古屋駅でのぞみへと乗り継いで、最速で京都へ戻ってきたとしても、その到着時刻は午後五時〇一分となってしまう。
このような龍二の主張に対し、当局はそれぞれの信憑性を確認した。
その中でも大きなキーとなる午後五時〇五分のATMの映像記録が調べられた。
そして、そこに龍二が映っているのが確認された。
そのATMは常に混雑をしていて、事実当日も混んでいた。
キャッシングのためには列に並ばなければならない。
その待ち時間は確実に十分以上は必要。
したがって、龍二は少なくとも映像に映った時刻午後五時〇五分より十分前の午後四時五五分にはそこにいたことになる。
つまり龍二が桜子を三河安城駅を過ぎて殺害した場合、豊橋駅より最速で帰ってこれる午後五時〇一分、それより早い時間にATMの列に並んでいたこととなり、それが証明された。
そして他のレシートには午後四時四三分と午後四時四八分の時刻記録があり、それらとともに合わせて、主張通り三河安城駅までで桜子を殺害することはできず、未遂のまま三河安城駅で元のこだま六五七号に戻り、京都へ帰ってきたと結論された。
このような判定により、一旦は殺人の容疑者からは外されていた。
しかし最近になって、元妻の真由美から「龍二は、三河安城駅を発車する上り六六二号のこだま車輌内にいるのを見た」と新証言があった。
それを受けて、再度ATM周辺の防犯カメラも含めて映像が仔細に解析された。
その結果、そこにはT氏(既に自動車事故で死亡)が列に並んでいる姿があり、そこへ龍二が走りきて、入れ替わる情況が映っていた。
その後、龍二へのさらなる取り調べが行われ、次のことがわかった。
龍二はT氏に対し、借金の一部免除を条件に、指定した時間に自動販売機で新幹線の切符を購入し、そしてコンビニで買い物をすること。
またそれらに加えて、ATMの順番取りをするように要請していたことが判明した。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊