紺青の縁 (こんじょうのえにし)
花木桜子の〈老舗料亭・女将・新幹線こだま内殺人事件〉。
死因は、当初静脈注射された塩化カリウムによると考えられていたが、新幹線の揺れの中で、正確に注射を打つことは不可能だと判明した。
さらに精密検査された結果では、体内からの塩化カリウムは検出されなかった。
これにより、死因は絞殺と確定した。
また犯行時間は、三河安城駅から豊橋駅までの間。
しかし、今回逮捕された容疑者の花木龍二は、左記のような主張を以前から繰り返していた。
花木桜子の殺害を企て、犯行に及んだことは事実として認める。
それは新幹線の下りこだまから上りのこだまへと乗り移り、犯行後に元の下りのこだまに戻るという一見思い付きそうもない、かつ実現できそうもない計画だった。
それに従って、龍二は東京駅十二時五六分発のこだま六五七号に乗り、新横浜駅で後発ののぞみ三七号に乗り換え、名古屋駅へと向かった。
そして名古屋駅で、桜子が乗車する上りのこだま六六二号に乗り移った。
企(たくら)みとしては、次駅の三河安城駅到着までに桜子を刺殺する。
そしてその後、三河安城駅で降車し、元のこだま六五七号へと戻る。
このようにして京都駅には午後四時三八分に到着する。
こんなアリバイ工作の謀計(ぼうけい)だった。
だが桜子は義姉でもあり、長年の愛人でもあったため、背後から殴打したことは認めるが、桜子を刺し殺そうとする段になって、自分の行動を反省し、殺害することを思い止まった。
そして恐くなり、未遂のまま三河安城駅で降車した。
その後、元のこだま六五七号に戻り、京都へと帰ってきた。
それを証明する一つは、京都駅に到着し、明後日に広島へ出掛ける予定のあった新幹線の切符を自動販売機で購入し、そしてコンコースにあるコンビニで買い物をした。
その午後四時四三分と午後四時四八分の時刻が印字された二枚のレシートを持っている。
また二つ目は、駅構内のATMでキャッシュを引き出した。
その払い出しの時刻記録は午後五時〇五分。
さらに防犯カメラに映った自分自身の映像がある。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊