紺青の縁 (こんじょうのえにし)
透き通るような白い肌に、くりっとした瞳が愛らしい。まるでシネマに登場した新人女優のようでもある。
真由美はそんな娘に、「優菜ちゃん、こちらに来てちょうだい、遼太さんのお父さんえ、御挨拶しなさい」と声を掛ける。
これを聞いた娘は少し後ろへとたじろいた。そんな娘の緊張を感じ取ったのか、真由美は一拍の間を取って、目を細めて霧沢に話してくる。
「霧沢さん、カンニンしてね。これからもまだまだ心配を掛けてしまいそうだわ」
この母、真由美の言葉で、霧沢はおよそのところの推察がついた。だが「そういうことになっていたのか」と、もちろん仰天。だが、ここは真由美の話しに驚愕続きで、ここは案外冷静に「遼太の父の霧沢です、よろしくお願いします」と優菜に頭を下げた。
「初めまして、私、優菜です、遼太さんにはいつもお世話になってます。私の方こそ、これからもよろしくお願いします」
娘の優菜はしっかりとした口調で挨拶を返してきた。
霧沢は「いつの間に遼太のヤツ、こんな綺麗なレディと知り合ったんだよ」と自分の息子でありながら少し羨ましくもなった。
それでも霧沢は「真由美さん、うちのルリはこのこと知ってるの?」と訊いてみた。
「もちろんよ。ルリ姉さんは、優菜が遼太さんとお付き合いさせてもらってること、充分承知しててくれてはるわ」
「そうなのか、知らぬが仏は俺だけだったのか」
霧沢は若干不満ではあったが、これからのことは本人たちの気持ち次第だと思った。
そして遼太の推理小説、新幹線こだま号を使ったアリバイ作り、それがなぜ真由美に使われたのか、それが疑問だったが、遼太から優菜へのこのルートで流れて行ったのだと納得もした。
しかし霧沢には、いろんな考えが頭の中を巡っていく。
「優菜の父は……、まさか龍二ではないだろうなあ。もしそうだとすると、龍二は今まで罪を犯してきた男、遼太はその娘と付き合っているのか?」
親心ながら心配になってくる。そんな不安な心境を横にいる真由美は察したのだろうか、娘の優菜が奥へと消えて行った隙に、霧沢の耳元でそっと囁く。
「霧沢さん、心配しないで。優菜の父は……、花木宙蔵なのよ」
これを聞いた霧沢、今日に至るまで、いろいろな場面で多種多様なことを耳にしてきた。
だが、これほどまでの衝撃発言を聞いたことがない。霧沢はまるで雷に打たれたかのように驚き、口に含んでいたビールを思わず一気に吹き出した。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊