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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 その後、真由美はやにわに霧沢にしなだれ掛かってくる。そして霧沢の肩を借りて、エンエンと泣き始めるのだった。
「真由美さん、もう良いんじゃないの、再出発したんだろ。これからもルリがサポートするだろうし」
 霧沢はそんな励ましをしてみた。

「霧沢さん、おおきに。宙蔵さんと洋子さんの三十年前の死は……、どのようにして犯行が行われたのかは、多分霧沢さんが推理してはる通りよ。桜子と龍二の二人が共謀して、密室状態を偽装して宙蔵さんをまず殺害し、次に洋子さんの場合、二台の車を使って、龍二はアリバイ工作をして、洋子さんの首を絞めたんよ。それで光樹さんはそれらの協力者のように見せ掛けられ、単に利用されてはっただけなんよ」
 霧沢は真由美から言い放たれたこんな結論に、「やっぱりそうだったのか」と納得し、「うんうん」と首を縦に振った。

 真由美は霧沢のそんな頷きに付け足し、「だけどね、ルリ姉さんは賢かったわ、私たちの今あるこんな状態、こうなっていくことをきっと早くから予感してはったんかもね。それでこんな渦巻の中から抜け出させてくれはるのは霧沢さんしかいないとね、……、八年間もジャズ喫茶店で、辛抱強く待ってはったんやもね」と言い、そばにあったティッシュで涙を拭いている。

 一方霧沢はこんな話しを真由美から聞きながら、京の千枚漬けを摘んでみた。さっぱりとした味が口の中に広がる。
 しかし、話しはここまでではまだ終わっていない。霧沢は何気ない風に訊く。
「それで、京藍の女将の桜子は、どんな風に新幹線こだま内で殺されてしまったの?」

「そやね、私、これだけは霧沢さんに直接お話しさせてもらっとかないとね。そう思って、ここでずっと店に来られるのを待ってたんやから……」
 真由美がここまでこう喋り、口籠もる。そして一拍置いて、遠くを見つめながら口にするのだ。
「だから、私……、明日警察に出頭するわ」
 霧沢はこれを聞いて、目をパチクリとさせた。
「そうか、真由美さんが出頭するのか……」
 霧沢はやっぱり桜子殺人の犯人は龍二の妻の真由美だったのかと、自分の推理がぴたりと当たり、溜息混じりでこう呟いた。しかしその後、意外な言葉が真由美から返ってきた。

「けどね、私、沙那さんのお陰で思い留まれたのよ」
 霧沢は自分の推理とは異なる真由美のこんな話しに、またぞろに目を瞬(しばたた)かせた。しかしここは必死に気を落ち着かせ、「へえ、そうなんだ、それは良かった」と胸を撫で下ろした。それを待ってか、真由美は声を落として続ける。

「上りのこだまから下りのこだまに乗り移る方法は、霧沢さんが推理してはる通りよ。それで、そのこだまに行ったらね、多分鈍器のようなもので背後から叩かれはったんやろね、女将は化粧室の所ですでに気絶してはったわ。それで私、刺そうと思ってね、近付いたら、後から突然声が掛かってきたんよ。……、真由美さん、やっぱり止めておきましょうよってね」