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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 そう、あれは八年間の海外遍歴から日本へ戻って来た三十歳の時のことだった。京都で仕事も見付かり、新たに生活をスタートさせた。そして、季節は風光る四月から風薫る五月へと移ろいつつあり、黄金週間が始まろうとしていた。
 そんな頃に、霧沢はたまには息抜きをと、オフィスの仲間たちと祇園界隈を飲み歩いた。そして最後にたった一人となり、辿り着いた所、それはママ洋子が仕切るクラブ・ブルームーンだった。その時に、ママ洋子が新任の美人チーママを紹介してくれた。

「マミで〜す、これからも御贔屓に」
 確かそう自己紹介してくれた。後は普段の関西系娘さんに戻り、「うふふふふ」と笑っていた。その当時のマミは今と変わらず少し大柄だった。
 だが細い身体に、肌は透き通るように白く、胸元のパールのネックレスが良く似合っていた。そして瞳はくりっとし、大人の雰囲気の中にも純な乙女の香りがしていた。まるでシネマに登場した新人女優の雰囲気があった。

 だが中身は「この子、顔は可愛いし、スタイルも抜群だし、ヅカ系美人だけど、おつむは中本新喜劇さんなんえ」と洋子が評していた。
 そんなことを霧沢は昨日のように思い出した。そしてその若いマミの面影が三十年経った今の真由美に充分見て取れる。歳を重ねてもやっぱり美人なのだ。
「ほう、あの時のマミさんか、今でもベッピンさんだね」
 霧沢は思わずそう唸ってしまった。すると真由美は「霧沢はん、三十年前もそう言ってくれはったわよ、えらいベッピンさんやなあと。ホントいつまで経っても面白い人ね。だってルリ姉さんがぼやいてはったんよ、アクちゃんの殺し文句は、いつもたった一つだけ。ベッピンさんだけなんよってね」と話し、後は昔と変わらずまた「うふふふふ」と笑う。

 しかし、霧沢はぎょっと驚いた。
「えっ、真由美さん、うちのルリを知ってるの?」
 真由美は今さら何を言ってるのというような面もちをしている。
「もちろんよ、ルリ姉さんのことはよく知ってるわ。それで私、そろそろ霧沢はんがここへおいやすやろなあと予感してたんえ。だからね、今日ここへ来やはった目的は何なんか、およそ見当が付くんえ」

 霧沢は訪ねて来た意図を見抜かれているようで、これがどういうことなのかわからない。だがそれを問い詰めず、「ほう、知ってるんだね、俺の今日の目的を……。真由美さんが考えられてる通りかもな」と漠然と返事をした。
 それを受けてか、真由美は三杯目のビールをゆっくりと霧沢のグラスに注ぎながら続ける。
「三十年前に、初めて霧沢さんにお逢いしたでしょ、その頃から今日まで、みんなにいろんなことがあったわ。それらの真実を全部知りたくならはったんやね、それで、やっと私の所に辿り着いてくれはったんやわ」
「三十年経っての再会か、うーん、そういうことになるかなあ」と霧沢も感慨深い。