紺青の縁 (こんじょうのえにし)
だが、ここに桜子、光樹、龍二の三人、そして二台の車が揃った。
霧沢はこれを前提として、〈洋子のクラブ内首吊り自殺〉、そのもう一つのシナリオが成り立たないだろうかと推考した。
光樹は単に隠れ蓑の役割をしただけ。霧沢はそう考えると、徐々にそのストーリーが次のように読めてくるのだった。
車は桜子と光樹が乗るA車。
そして龍二が乗るB車、それらの二台があった。
この状態で沼津インターチェンジより東名高速道路へと入った。
そして、この三人は日本平パーキングエリアで落ち合った。
その後、午後一時前の出発時に、何も知らない光樹は、桜子から「龍二に急用が出来たわ、龍二のB車を京都まで運転して行ってちょうだい」と指示された。
光樹は「ああいいよ」と軽く受け、A車からB車へと乗り換えた。
そしてそれとは反対に、龍二はB車から桜子が乗るA車に乗り移った。
A車は桜子と龍二、B車は光樹一人、その組み合わせとなり、日本平パーキングエリアを出発した。
その後すぐに、龍二は近くの高速バス停留所で桜子が運転するA車から降りた。
そこから龍二はタクシーで、新幹線に乗るために静岡駅へと向かった。
一方では、桜子が走らすA車、そして光樹が運転するB車、これら二台の車は連なって東名高速道路から名神高速道路を通り、京都へと向かった。
この二台の車それぞれを運転する桜子と光樹は休憩のために途中の養老サービスエリアへと入った。
そして桜子は、土産店の店員の前で光樹に馴れ馴れしく振る舞って、まるで一台で移動しているカップルのように印象付けた。
一方、龍二は新幹線で京都へと向かい、午後五時前には祇園のクラブ内に入った。
そして、呼び出しておいた洋子を絞殺し、首吊り自殺を偽装した。
それは男の力であるならば、そう難しいことではなかった。
そこから龍二は名神高速道路の深草バスストップへと行き、そこへ桜子が運転するA車、そして光樹が運転するB車、それら二台の車がやって来るのを待った。
午後六時十分前の時間通りに、それらは到着した。
そして龍二は元のB車へと戻った。
またB車を運転してきた光樹はB車から降り、桜子が運転するA車へと乗り移った。
こうして二台の車は元あった状態に戻ったのだ。
つまり桜子と光樹が乗るA車、そして龍二が一人運転するB車、その二台の車となった。
その後は別々に京都南インターチェンジを通過する。
ただし、A車の桜子は料金所で紙幣を風で飛ばし、係員に光樹が同乗していることを印象付けたのだった。
このようにして、沼津インターチェンジから京都南インンターチェンジまでの間、桜子と光樹が乗るA車と、龍二が一人乗るB車が別々に走って来た状態が偽装されたのだ。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊