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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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 そう言えば、ルリはいかにも残念そうに話していた。
「沙那がね、信じて欲しいの、私たちは宙蔵さんや洋子さんの出来事に直接的には何も関与していないのよ。そんなことを沙那が言って、私の手を握って、ここで大泣きしたんだよ」と。確かにそうなのかも知れない。

 もしそうだとすると、三十年前の〈花木宙蔵の密室・消化器二酸化炭素・中毒死〉、その真実はどういうことだったのだろうか。この事件は、宙蔵と洋子の不倫に対しての桜子の怨念で、桜子が光樹の手助けを得て、密室殺人をしたものだと、今まで霧沢は推理してきた。
 だが真実はきっと異なり、霧沢の推理は間違っていたのだろう。

 霧沢は、桜子と龍二の関係を推理の中心に置き、〈花木宙蔵の密室・消化器二酸化炭素・中毒死〉を考え直してみた。
 滝川光樹は桜子に言われるままに、何も知らずに十枚の油絵キャンバスをマンション内へと運び込んだだけだったのだ。
 そのキャンバスの後ろのスペースには、一キログラムずつで合計十キロのドライアイスが貼り付けてあった。そして、光樹は桜子の指示のまま、その翌朝にマンションを訪ねて行っただけだった。

 宙蔵の殺害、その動機はむしろ龍二の方が強い。なぜなら、不運にも次男であるがために分家となり、やる気はあったが本家から追い出されてしまった。
 商売っ気のある龍二は、兄の宙蔵から京藍を奪い取りたい。
 そんな龍二にとって、さらに面倒なことに、宙蔵が外に愛莉と言う子供を作ってしまったのだ。そして、その認知を進めようとしている。
 それがもし現実のものになってしまうと、愛莉の婿がゆくゆく継いでいくことになる。これで龍二の出番は消滅し、勝算はまったくなくなってしまう。
 龍二にとって、宙蔵と洋子はまさに邪魔者だったのだ。

 もちろんプライドの高い桜子も宙蔵が許せない。そして、いなくなってもらえば、密事ながらも好きなように龍二と生きていける。
 そんな心理で、桜子と龍二はドライアイスを使って死亡時刻を遅らせる工作をし、宙蔵を殺害してしまうことを企んだ。
 こうして犯行は実行され、そしてその翌朝、龍二は宙蔵のマンションに侵入し、ボヤを発生させ、消化器を使っての事故死を偽装した。その後龍二は、桜子がドアチェーンを破って管理人と一緒に入って来るのを、バスルームに隠れて待った。
 そして桜子はマンション内に管理人と入り、宙蔵が死亡しているのを発見する。そんな時に、光樹は指示に従って、何も知らずに展覧会出品用の絵を取りにやって来た。そして宙蔵の死を知り、桜子を手助けする。

 そんなパニックになっている現場の隙に、龍二は隠れていたバスルームから外へと逃げた。
 このように、光樹は龍二が前面に浮き出てこないように、単なるカモフラージュ役として使われ、密室殺人は完結されたのだ。