紺青の縁 (こんじょうのえにし)
そんな霧沢をルリはじっと見つめながら、一息ふうと吐き、「光樹さんは沙那に一途だったし、沙那もずっと光樹さんのことを愛していたんだよ。だって光樹さんと一緒に、それは事故だったにしろ何にしろ、車ごと谷底へと落ちて行ってしまったんだよ、そんな強い縁で結ばれていたのよ。女将の桜子が亡くなり、その上に、沙那と光樹さんも亡くなってしまったわ。……、結局そうなることによって、過去のすべてが抹殺されてしまったことになってしまったんだよねえ」と厳しい表情をしている。
そしてその後、ルリは少し心配げな面持ちとなり、なぜか突然に、「あの桜子の事件の日、私ね、京都駅で光輝さんを見掛けたの。きっと沙那を迎えに来てただけだよね、事件には関係ないわよね……。あなた、きっとそうだよね」と呟き、悲しそうな眼差しで霧沢を見つめてくる。
霧沢は即座にそれに返す言葉が見付からない。ただただ深く思考を巡らす。
そしてしばらくして、特に根拠はなかったが、「それって、絶対に仕事の合間を縫って、沙那さんを迎えに来てただけだよ。だから光樹はずっと京都にいたんだよ」と、まずはルリの心配、光樹が犯人だという疑いを解こうと、ルリの呟きに対して強く肯定した。
その後、元の話題へと戻り、「沙那さんは、宙蔵と洋子、それに桜子が亡くなった後、少なからずいろいろな出来事に関わってきた自分たちを反省し、夫婦自ら逝ってしまった。そうすることにより、友人たちの不幸な過去をも含め、全部消してしまったということなんだよ、……、絶体に意図的に」と、霧沢はそう自分を納得させ、沈思黙考する。
そんな霧沢に、ルリは自分自身の気持ちに念を押すかのように話す。
「そうなのかも知れないし……、だけど真実はそうではなく、単なる自動車事故だったのよ。だって私、警察に見せたのだけど、事故の起こる前に沙那からメールをもらったの。お土産に大きな蟹を届けるから、楽しみに待っておいてねってね。それで警察は他の状況も検討して、光樹さんと沙那には心中する意志はなかったと判断したのよ、そして自動車事故による死亡と結論付けたわ。だけど、これは単なる結果としてなんだけど、大輝さんと愛莉の新婚夫婦に、京藍に借金を返済しても、そこそこ残る保険金まで残してくれたことになったわ。……、だからある意味では、大きな蟹は届いたのよ」
霧沢はこんなルリの解釈に「うーん」と言葉が詰まった。
しかし、一つ心配事がある。霧沢はルリの目を見ながら、「なあルリ、こんな話し、大輝君と愛莉は知ってるのか?」と訊いてみた。
「多分、気付いているかも知れないわ。だけど、これは私のあくまで個人的な推理であって、妄想よ。愛莉たちに必要なことは、愛ある家庭をこれから築いて行くことなの。沙那のお陰で親たちの不幸な過去は全部消えてしまったし……、だから二人には、もうこれ以上過去を振り返って欲しくないの」
霧沢はこんなルリの結論に、「確かに、そうなのかもなあ」と頷いた。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊