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紺青の縁 (こんじょうのえにし)

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「霧沢君、何言ってるのよ、宙蔵さんと桜子は、今は御夫婦なのよ、私が付き合う余地なんかないわよ。それにねえ、学生時代から私は、その場その場でみんなの隠れ蓑(みの)にされてきただけなの。今もそうなんだから……、わかってないわね」
 ルリが噛み付いてきた。しかし、「今も隠れ蓑にされてるって、どういうこと?」と霧沢は小首を傾げる。
 するとルリは曖昧模糊な表現で、「私よく知らないわ。だけど世の中いつも複雑で、誰かさんと誰かさんとの親密交際なんでしょ」と吐き、後は押し黙ってしまった。

 どうもルリ自身は真実とは異なることを突然言われ、気分を害してしまったようだ。霧沢はそれを敏感に感じ取った。そして素早く、不用意にも言葉にしてしまった「宙蔵と付き合ってるんだ」を打ち消すため、「誰が誰だかよくわからないけど、とにかく、ゴメンなさい」と殊勝に謝った。
 だが本当のところ、なぜ宙蔵の絵がここの壁に飾られてあるのかが、もう一つわからない。そんな訝(いぶか)しがってる霧沢の胸の内を察したのか、ルリがさらに説明を加える。

「宙蔵さんと桜子はずっとね、あまり仲が良くなくってね、多分宙蔵さんが仲直りをしようと思って描いたのか、それとも他の誰かさんのために描いたものなのかは知らないけれど……、それで、この〔青い月夜の二人〕の絵を、日々生きてきた証に残しておきたいと言ってね、この思い出の喫茶店に飾って欲しいと宙蔵さんが持ってきたのよ」
「ふうん、ルリさんにね、どうしてなのかなあ?」
 霧沢は宙蔵とルリとの関係がまだ理解できない。するとルリはまるで他人事のように、「なぜなのでしょうね。私、昔から桜子と宙蔵さんの悩み事の一時預かり所みたいな役回りだったからね、また私にその役割を期待しているのじゃないのかしら」と話す。

 しかし霧沢は、これではすっきりとした合点がいかない。そこで奥歯に物が挟まったような言い草で吐いてしまう。
「ふうん、そうなのか、けれど、その絵はルリさんのためではなかったんだ」
 ルリはこれを聞いて、霧沢をぎゅっと睨み付ける。
「当たり前でしょ。だけど霧沢君、残念でした、私には他にちゃんと好きな人がいるわ、わかんないでしょ」
 ルリはすぐさま切り返した。

「えっ、ルリさんに好きな人が……」
 確かに学生時代もそうだった。ルリの好きな男は誰なのかと、いろいろと詮索(せんさく)をしてみたがわからなかった。霧沢はそんなことを思い出す。
 そして霧沢は冗談ぽく、「そんな好きな人がいるのなら、俺に一言言ってくれりゃ良かったのに。俺、ルリさんのためだったら、一肌脱いであげたのになあ」と返した。