紺青の縁 (こんじょうのえにし)
霧沢はこんなシナリオが成り立つものなのかどうかを確かめるために、日本平パーキングエリアから静岡駅へと移動し、新幹線に乗った。その後、京都駅から祇園へと行き、それから深草バスストップまで実地確認をした。
桜子が通ったと推察した行程、それは現実に可能だと確信した。
しかし、このシナリオには難点がある。
それは桜子と光樹は名古屋を過ぎた岐阜県の養老サービスエリアに立ち寄っていたことなのだ。それが裏取りされていた。
もしそれが事実であるならば、たとえ霧沢が日本平パーキングエリアから京都祇園までの新幹線を使った桜子のルートを発見したとしても、そのシナリオは成り立たない。
つまり、桜子と光樹の二人は高速道路から外れることもなく、ずっと一緒に車で走っていたこととなり、いずれも犯人に成り得ないのだ。
桜子と光樹は本当に岐阜県の養老サービスエリアに立ち寄ったのだろうか?
また他に違ったやり口があったのだろうか?
霧沢に疑問が生じてくる。
しかし、今となっては確認のしようがない。
だが霧沢は、こんな疑念の中で、未だ霧沢が気付いていない何かがひょっとしたらあるではないかとふと思うのだった。そして少し角度を変えて思索してみる。
桜子が洋子を殺害したとしたら、宙蔵から洋子へと連続に犯行に及んだことになる。そこまでも桜子を追い込んでしまったものは一体何だったのだろうか?
学生時代、桜子はいつも真っ白なブラウスにブルージーンズを穿いていた。そして長い黒髪をなびかせ、颯爽(さっそう)と風を切ってキャンパス内を闊歩していた。その上に年上の女性のようにセクシーで、とにかく男子学生たちの憧れの的だった。
霧沢が海外を放浪している時に、風の噂で聞いたことがある。桜子は友人の花木宙蔵と恋愛の末に、老舗料亭の京藍に嫁いだと。
しかし、その宙蔵は外に女を作ってしまい、子供まで設けてしまった。しかもその女は、桜子も知っている洋子。
洋子は元々場末のスナックでアルバイトをしていたような娘。彼女とはどだい住む世界が違う、桜子は少なくともそう思っていたことだろう。
その上に、洋子は厚かましくも、その子の認知まで宙蔵を通して迫ってきた。
桜子は絶対に許せなかった。それで滝川光樹に身を委ね、二人の殺害に及んだ。
霧沢はここまで一気に推理してみるが、「うーん」と溜息を吐いてしまう。そして思うのだった。果たして桜子と光樹はそのような関係だったのだろうか?
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊