紺青の縁 (こんじょうのえにし)
果たしてこの密室殺人事件を、桜子が実行することは可能だったのだろうか?
霧沢はこんな推理を一歩一歩進めて行くこととした。そして、まずその前提として、桜子の動機は何だったのだろうか、それを考え始めた。
当時、すでに夫の宙蔵とクラブママの洋子との間に愛莉が生まれていた。洋子は「私、シングルマザーなんよ。パパは認知してやろうと約束してくれてはったのに、嘘吐かれちゃったわ」とやり切れなさそうに嘆いていた。
気の良い宙蔵のことだから、きっと愛莉を認知しようとしていたのだろう。しかし、当然のことだが、妻の桜子はそれを許さなかった。
学生時代からプライドの高かった桜子、夫に愛人がいて、しかもそれが知り合いの洋子。その上に子供まで作ってしまった。桜子は夫に裏切られ、恨み辛みをきっと募らせて行ったのだろう。
しかし、それだけではなかった。桜子は夫の浮気に対抗するかのように、滝川光樹との不倫の愛に溺れて行った。そして光樹との愛を実らせるためにも、老舗料亭・京藍を宙蔵から完全に奪い取ってしまおうと企んだのではなかろうか?
こうして桜子は宙蔵と洋子を殺害することを決意した。そんな殺意を抱くまでに至ってしまったのだ。
桜子にはこんな充分な動機があった。
もしそうであるならば、宙蔵はどのようにして桜子に殺害されたのだろうか?
宙蔵は六畳の部屋で、二酸化炭素の急性中毒で死亡したと言う。
霧沢はいろいろと調べてみた。そして次のような推理に至ったのだ。
作品名:紺青の縁 (こんじょうのえにし) 作家名:鮎風 遊