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大雨の翌朝は晴れていた

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「飛行機に乗ってるみたい。落ちないようにちゃんと運転してね」
 結花の顔は蒼白で、こんなに怖い体験をしたことは初めてだと言外に訴えていた。一応笑顔を見せたものの、それは明らかにこわばっていた。羽柴の方もそのようなところは初めてなので、気の遠くなるような恐怖感にさいなまれている。結花の云うように、まるで空を飛んでいるような感覚なのだ。
 だが、深い谷間を挟んで見える向こうの巨大な山の連なりの、残雪を眩く輝かせている様は息を飲む美しさである。その景観はかつて経験したことのない感動を覚えさせた。そのような危機感を煽る状況ではあっても、羽柴は決して後悔はしていなかった。
 漸く辿り着いた雪渓のある高原では、コンクリート製の建築物や多くの鉄塔が羽柴たちを出迎えた。そこは冬季に訪れたならば多くのスキーヤーたちがバカンスを愉しむ場所だったが、今は人影が絶えた場所になっていた。
 車から出るとそこにはかなり冷たい風が吹いていた。羽柴は結花と手を繋ぎたいとは思うのだが、わだかまりがそれをさせなかった。
 唐突に轟音が轟き始めたのは、物資を運ぶヘリコプターが到着したからだった。建物の中から何人かが現れ、段ボール箱の運搬を始めた。
「何だか映画を観ているような感じだね」
 羽柴は笑顔になってそう云ったが、結花は半ば口を開いて驚いた表情を見せている。
「ホテルに食料を運んで来たのね」
 よく見ると雪渓にはスキーに興じる人々の姿が蟻のように小さく見えた。