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大雨の翌朝は晴れていた

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 カッコウが啼いている声が遥かな空間に木霊している。
「去年、尾瀬に行ったときもカッコウが啼いてた」
 そう云ったのは結花だ。羽柴は尾瀬に行ったことがなかった。誰と行ったのかを、彼は妻に対して追究したかったが、そのことばは喉元で止めた。潜在的な確執を、云い争いが顕在化させるかも知れない。せっかくの休日が台無しになることを怖れたのだった。



 午前中、羽柴は助手席に妻を乗せてさんざんその辺りを車で移動してみた。幹線道路は朝のラッシュが忽然と消滅すると、寂しいくらいに閑散とした空間を生じさせた。それを評してゴーストタウンのようだと云ったのは彼だったが、それは間の抜けた表現だと思った。道路の両側は田畑や空き地が圧倒的に多く、建築物としては時折、農家や神社仏閣、農協、校庭がだだっ広い学校、お茶と海苔の店、農産物の仮販売所といったものしか目に入らない。だからそこが「タウン」である筈はない。
 人の姿がまるで神隠しに遭ったように、どこまで行っても目につかない。
「この時期に冬眠?」
 結花は目をまるくして云った。
「田植えの時期が終わったんだろうね。温泉にでも行くと人だらけかも知れないよ」
 羽柴は笑いながら応えた。昨日までは喧騒と雑踏に取り囲まれたさ中に居たのだ。それとは対照的に、毎日では憂鬱になるような静謐が、彼を嬉しがらせている。こういう時間も年に一度くらいは味わいたいものだと、彼は心から思った。