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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 3 蒼雷

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 三人は、現場から逃げ出した後、走りに走って、街の外に続く門の辺りまでやってきた。
「はあ、はあ。ここまでくれば、大丈夫でしょう。」
「そうね・・・多分・・・大丈夫だと思うけど。」
「二人共ごめん。私が変な所で魔法をつかったばっかりに。」
 肩で息をしている二人に、唯一息を全く見だしていないオリガが頭を下げる。
「やっぱ私には無理なんだよ。女らしくないしさ。」
「さっきのは走っていったのが間違いだったのよ。今度は待ち構えていましょう。そうすればきっと大丈夫よ。確かこの時間は、ちょうど門の守備の勤務終了の時間だからちょうどいいカモがここを通るし。」
「カモって誰のことですか?」
 問い返すオリガに、ジゼルは怪しい笑みを浮かべながら答える。
「鈍い上に女性からのアタックにはしどろもどろになっちゃう、お父様と同年代のおじさま。」
「え?それって一体誰の事で・・・」
 聞こうとしたオリガは、外門から街に向かって歩いてくるヘクトールを見つけた。
「さあ、別に引っ掛けなくていいからアピールしてみなさい。ヘクトールの顔を赤くさせたら合格よ。」
アリスはそう言い残すとジゼルと二人で、さっさと建物の影に隠れてしまった。
(赤くさせるって、どうやって?)
 オリガがそんな事を考えているうちにもヘクトールはどんどん近づいてくる。
 もう仕掛けないと通り過ぎてしまうという所でオリガはとりあえず声をかけることにした。
「あ、あの!」
「どうしたんだオリガ。お、珍しい格好をしているな。そういうのも中々似合うじゃないか。」
「あ・・・ありがとうございます!」
「アリスやジゼルと遊ぶのはいいが、あまり遅くならないうちに城にもどるんだぞ。」
ヘクトールはそう言って二人が隠れた物陰のほうに視線を向けると、ポンポンとオリガの頭をたたいて笑った。
「はい!」
「じゃあな。」
「はい、お気をつけて。」
 そう言って頭を下げた所で、オリガはハッとした。
「・・・あれ?」
「何であっさり見破られるのよ。」
「いつも変身能力のあるメイの相手をしているヘクトール殿のことですし、もしかしたらあまり相手の外見をみていないと言うことかしら。どちらにしても相手が悪かったかもしれないわね。そうだ、ユリウスならきっと鼻の下を伸ばすに違いないわ。ユリウスにしましょう。」
「・・・もういいよ。やっぱり私にはこういうの向いてないんだってわかったから。」
「オリガ・・・。」
「私なんかにかまっていると二人まで良い人できなくなっちゃうよ。」
 オリガはそう言って悲しそうに笑うと、魔法を使って走りだし、あっという間に見えなくなってしまった。
「オリガ!」
 アリスはオリガを呼ぶが、もう見えなくなってしまったオリガにはその声は届かない。
 と、アリスとジゼルの間を一人の身なりのいい、短髪の蜂蜜色の髪をした騎士がすごい勢いで走り抜けていった。
「あれって・・・」
「誰かしら?後ろ姿しか見えなかったけど、貫禄があって、格好良い騎士だったわよね。」
「え・・・ああ。多分リシエールの騎士じゃないかしら。」
 ジゼルの問にアリスは曖昧な笑顔で返事をした。


 土手沿いの道を走っていたオリガは、ブチっと何かが切れるような音を聞いた後、豪快にバランスを崩して土手を転がり落ちた。
 日頃の訓練の成果か、土手を転がり落ちる間にも怪我らしい怪我はしなかったが、転がり終わった後、仰向けに寝そべったオリガの目には涙が浮かんでいだ。
「私は一体何をしているんだろうか。」
 しがない農民の娘として生まれ、そのまま一生を終わるはずだった自分が兵士として取り立ててもらっただけでも十分に幸せではないか。それだけではない、今や自分は千人長並の待遇を受けているのだ。これ以上を望むのは高望みし過ぎというものだ。
 そうだ、大体別に相手がいるということだけが幸せというわけではない。
 そう考えて、涙を拭うと、オリガは決心したように、口を開いた。
「そうだ。別に私は相手がいなくたって大丈夫。一人でだって生きていける。」
「それは、勿体無いな。」
 さきほどアリスとジゼルの間を走り抜けた男盛りの騎士がオリガの横に腰を下ろした。 手には走っている時に壊れたオリガのミュールが握られている。
「勿体無いって、何がですか?」
「相手が居なくても。なんて言ってしまうのが勿体無いという話だよ。君はとても魅力的だからね。」
 そう言って笑うと、騎士は自分の胸のポケットからチーフを取り出し、おもむろにそれを引き裂いてミュールの修理を始めた。
「そんな、修理なんかしなくても。」
「そうか?だが、ここからでは城に帰るまで結構な距離があるんだぞ、オリガ。」
「え・・・何故私の名前を?」
「多少髪型が変わってメイクをしていてもわかるさ。」
「貴方は一体・・・。」
「ああ・・・そうか、わからないか。」
「え?」
「いやなんでもない。私はアンドレアスという。その・・・リシエールの騎士だ。」
「リシエールの?」
「ああ。実はさっき街中で君を見かけて様子が変だったので追ってきたんだ。・・・もしかして、ジゼル姫やシュバルツ将軍にいじめられているのか?」
「いや、いじめられているというか・・・二人は私のためにいろいろしてくれているんですが、私が至らないせいで色々と迷惑をかけてしまっていて。」
「それで逃げ出した?」
「はい。」
「ちなみに三人でつるんで何をしていたんだ?」
「二人は、私を女性らしくしようとしてくれているんです。その・・・私と、意中の人がうまくいくようにって。」
「ほう、オリガにそんな人が!そうかそうか。うんうん。」
 ミュールを修理する手を止めてアンドレアスが感嘆の声を上げた。
「やっぱり、似合わないですよね。こんな男女が男性を好きになるなんて。」
「そんな事はないよ。今でも君は十分に魅力的だけど、もし君が今以上に魅力的になったとしたら、その意中の相手だって放っておかないさ。」
「そうでしょうか。私なんかに想われても迷惑なのではないでしょうか。」
「いいや。もし私が君の思い人なら、うれしくて小躍りしてしまうよ。」
 アンドレアスはそう言って修理の終わったミュールを持ってオリガの足元にひざまづくと、ミュールを履かせて微調整をほどこして立ち上がり、手を差し出す。
「これでよし。立てるかな?」
「はい。ありがとうございます。」
 差し出された手を取ってオリガが立ち上がる。
「どこか痛いところや怪我しているところはないかい?」
 オリガの手を引いて、土手の上の道へと歩きながらアンドレアスが尋ねる。
「大丈夫です。あの、チーフ代を・・・」
「いいさ。君のような女性を助けることができて、僕のチーフも本望だろうからね。そんなことより、ジゼル姫とシュバルツ将軍が君の事を探しているようだよ。」
 そう言ってさわやかに笑うと、アンドレアスはオリガが走ってきたほうを指さした。確かに彼の言う通り、まだだいぶ離れたところではあるが、ジゼルとアリスがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。オリガが二人を見つけたのを確認すると、アンドレアスは「では、また。」と言って、走ってきた方向とは逆の方向に歩き出した。