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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 3 蒼雷

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「なあ、何をそんなに怒っているんだ?」
「怒ってないにゃ。どちらかと言えば呆れているにゃ。」
 牢の中でヘクトールが尋ねるがメイの態度はにべもないものだった。
 ここ二日ほど、何度か繰り返したやり取りに、辟易しながらも、ヘクトールは根気よく話をつなげようと試みた。
「俺がお前に何かしたのか?さっぱり心当たりがないんだが。」
「何もしていないにゃ。逆に言えば、私の変化に気づかないことに腹を立てているにゃ。」
「変化と言われてもなあ・・・ジュラはジュラだろう。特にここにきてからの三日間変わったようには感じないんだが。」
「はい?」
「いや。ジュラだよな?メイの妹の。」
「・・・気づいていたんですか?」
「あたりまえだろう。いくらメイに変身していても、ジュラとメイではクセが全然違うからな。おそらくアリスがアミサガンに出陣する前にここに来た時一緒にいたメイドに変身したジュラがメイと入れ替わったんだと思うが、そろそろ俺にも何が起こっているのか教えてくれないか。まさかここでこのまま捕まっていればいいというわけでもないのだろう?俺はどう動けばいい?」
「・・・そうですね。試すようなことをして申し訳ありませんでした。これからヘクトール殿にはグラール侯爵の奥方と姫を救出して頂きます。」
「救出?」
 思いもよらない話に、ヘクトールがジュラに聞き返す。
「はい。今回の裏切り者についての一連の事件は、半分はジュロメの件を利用した狂言です。間者からの報告で、グラール公爵の妻子がこの領の宰相であるラルに囚われていると知ったアレクシス様は、まずアリスさんとアンドラーシュ様が裏切ったという噂を流し、この街に潜入させ、軍勢の大部分とグラール侯爵をお二人がおびき出した後で、捕らえられている侯爵夫人と侯爵令嬢を連れ出すという作戦を立てられたのです。」
「・・・なるほどな、初日の謁見の間に公爵夫人がいなかったのはそういう理由か。妻子を人質に取られた侯爵は渋々バルタザールについていたという訳だな。」
「ええ。本当はもっと早く・・・それこそ姉さんと入れ替わってすぐにでもお話をするべきだと思っていたのですが、メイ姉さんが、その・・・ヘクトールに演技は無理だからギリギリまで黙っていろといわれまして。申し訳ありません。」
「そういうことか。はっはっは。なるほど。ジュラが気にする必要はないぞ。メイの言う通り、俺はそういう演技をするようなことが苦手だからな。それで、アリスとアンは軍勢と侯爵の連れ出しに成功したのか。」
「はい。この街の兵士の9割は出陣しました。ただ・・・兵力は激減していますが、今現在この城の中に残っている兵は宰相の息の掛かった人間ばかり。それに敵の数が少ないとはいえ、私とジュネは戦闘についてはほとんど役立たずですし、こちらの戦力はヘクトールさんとメイ姉さんだけ。相当厳しい作戦になると想います。」
 少し不安そうな表情を浮かべるジュラの頭に手を載せてなでながら、ヘクトールが優しく笑う。
「心配しなくても大丈夫だ。俺もメイもこういう仕事には慣れているからな。ジュラもジュネも侯爵夫人たちも、ちゃんとアミサガンまで送り届ける。それで、決行はいつだ?そういう状況ならもうだいたい決まっているんだろう?」
「・・・ふにゃ・・・あ、はい。決行はメイ姉さんが二人の幽閉場所を特定したその日に・・・」
 ヘクトールに頭をなでられて、その気持ちよさに思わず目を細めたジュラが我に戻ったところで、牢獄の入り口の扉が開く音が聞こえ、やがて兵士の格好をしたメイが鍵の束をチャラチャラと弄びながら鉄格子の窓から顔を覗かせた。
「二人の居場所、特定できたよ。今晩決行するから準備して。」
 メイはそう言いながら牢の鍵を開けると、没収されていたヘクトールの装備を投げてよこした。

 ヘクトールとメイの脱獄を告げる鐘が鳴り響く中、二人は獅子奮迅の働きをし、人質だった二人を連れて城壁の上に到達していた。
「十年前、エーデルガルド様とユリウス様を連れて逃げた時の事を思い出すな。」
「そうだにゃあ。あの時からヘクトールの腕は衰えてないみたいで安心したにゃ。」
 二人は両側から迫りくる兵士達から人質を守りながら、軽口を叩き合う。
 一見逃げ場のない城壁の上に追い詰められているようにも見えるが、実際の所は作戦はすでに、ジュラの操る馬車が城壁の下に来るのをまって二人を馬車に乗せれば完了という段階だ。
 最初は作戦も終了間際ということで叩きだした軽口だったが、その軽口ももうかれこれ二分以上続いており、二人の心のなかには少しのあせりが出てきていた。本当はもう馬車が下に到着していなければいけない時刻なのだ。
「・・・遅いな。」
 少しだけ息が上がってきたヘクトールがつぶやく。
「どっかでつまみ食いでもしてるんじゃないかにゃ。」
「ジュネだけならそれもあるかもしれないが、ジュラがいるんだから大丈夫だろう。」
「あはは、ちゃんと妹たちの特徴を覚えてくれてるなんて、嬉しいねえ。」
 そう言って笑うが、メイはジュネとジュラに何かあったのではないかと、心の中では気が気でなかった。
 と、その時、城壁の下からジュラの声が響いた。
「姉さん!ヘクトール殿!急いでください!追っ手に追いつかれます!」
 ジュラの声を聞いて、ヘクトールが馬車が来た方向に視線を向けると、どこから現れたのか、デミヒューマンの群体がジュネとジュラの駆る馬車に向かって迫ってきていた。
「メイ!侯爵夫人を!」
「わかったにゃ。」
 そう言ってヘクトールは侯爵令嬢を抱えて飛び降り、メイも侯爵夫人を抱いて飛び降りた。
「絶対に顔を出さないでください。」
 ヘクトールはそう言って鉄板の貼られた馬車の扉を締めると、メイと共に馬車の屋根に飛び乗り、予め置いてあったクロスボウを手にとって追っ手のデミヒューマンに向けて撃った。
 クロスボウから放たれた矢は見事にデミヒューマンに当たるが、馬で追ってくるデミヒューマンの数はどう考えても手持ちの矢の数よりも多い。
「まずいな。馬車に取り付かれたらやられるぞ。」
「あたしに任せておいて。」
 メイはそう言って走っている馬車の屋根から器用に後輪の泥よけの上へと降りると、先頭のデミヒューマンの馬へと飛び乗って、元々乗っていたデミヒューマンを蹴落とした。そして同じようにして次々に馬に乗ったデミヒューマンを倒していく。そして追いつきそうだった十騎ほどを馬から落としたところで馬車の後輪に飛び乗り、再び屋根の上へと登ってきた。
「キリがないにゃあ。」
「とにかく門を抜ければ森に身を隠すこともできるだろう。そうすれば逃げ延びる道も見える。」
「貴族様を抱えて森って・・・中の二人に森の中は酷なんじゃないかにゃあ。」
「だが、それしかないだろう。」
「ていうか、今思ったんだけど、外門ちゃんと開いているのかな。誰も門の確保をしてないし、もしかしたらもう閉められてたりして。」
 メイの指摘にヘクトールが青ざめた。
 当然門が閉まってしまっていればこの街から脱出することはできず、ヘクトール達は殺され、二人は城に連れ戻されてしまうだろう。そうなれば作戦は失敗する。
「本当に誰もいないのか・・・・・・?」