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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 3 蒼雷

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アレクシスとエドがセロトニアに旅立つ前、アンドラーシュがオリガに異動を告げた日の夜、アリスは会議室の机の上に自分宛に届いた密書を叩きつけてにっこり笑った。
「・・・というわけで、頭に来たので、アレクのお望み通り私は本当に裏切ることにしますね。」
 そう言い放つアリスの笑顔は心からの笑顔ではなく、口元がひきつっている。そんなアリスの笑顔を見たアレクシスがおそるおそるアリスに尋ねた。
「えーと・・・アリス、ひょっとして怒ってるのかい?」
「怒っているに決まっているでしょう。何を当たり前のことを言っているのですか!」
 会議室の中にはアリスの他にはアレクシスとアンドラーシュ、それにカズンとソンが座っている。今日の議題は、マタイサ軍と、連合軍内部の反アレクシス派を名乗る人間からの密書についてだった。
「そもそも、私やアンが裏切り者というのは一体どういうことなの?エドを拐うためにジュロメにおびき出したとかなんとか聞いたけど。そんなことしていないのは、アレクだってわかっているでしょう。それも尋問もせずに勝手に裏切り者だって言われて爪弾きにされて。それで怒らない人間がいますか!」
「まあ落ち着けアリスよ。それについては儂から説明しよう。」
 そう言って、アリスを諌めるとソンが一連の話について語り出した。
「まず、今アリスが言った話だが、その話自体は反アレクシス派が流した噂じゃな。そういう噂を流すことで、アレクシスの側近であるアリスを中枢から遠ざけ、その事を不満に思ったアリスを自分たちの派閥へ組み込んで戦力を強化し、来るべき日に備えようと、まあそういう計略なのだよ。万が一派閥への組み込みに失敗しても、アリスが中枢から遠ざかれば、それだけアレクシス派の力は低下するからな。」
「つまり、今のアリスの状態はまさに奴らの思う壺ってわけだ。」
 カズンがソンの言葉を引き継いでアリスをバカにしたような笑みを浮かべ、その態度にカチンと来たアリスはカズンを睨みつけ室内には一触即発の空気が流れた。
 今にも殴りかからんとするアリスと、いつでもどうぞと言わんばかりの表情でいるカズン。そんな二人間の張り詰めた空気打ち破ったのはアンドラーシュだった。
「はいはい。じゃあ、事件の真相がわかったところでアリスは機嫌を直す。カズンもアリスをいじめない。」
「別にもう怒ってなんかいないわよ。ただ単にカズンにイライラしているだけで。」
「おいおい、八つ当たりはやめてくれよ。」
「はあ・・・二人とも。そういうのは会議の後にしてくれ。」
「あら、会議の後なら好きなだけやっていいの?そんなことしたらカズンなんかこの戦争が終わるまで病院から出てこられなくなってしまうけど。」
 アレクシスの言葉に口をへの字に曲げて今度はアリスがカズンを馬鹿にしたような表情で見る。
「やめてくれ。カズンは我が軍の優秀な軍師なんだから、そんな事になったら反体制派の思うツボだろう。そういうことじゃなくて、口げんかの話だよ。」
「・・・じゃあこの決着は全部終わった後できっちりつけることにしましょう。それで、一体どうしてこのメンツをここに集めたの?」
 アリスのその質問には、アレクシスではなく、ソンが答えた。
「実は少し前に儂のところにもアリス同様に、反体制派からの誘いがあってな。誘いに乗ってみたのじゃよ。虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うしな。そうしたら、反体制派はバルタザール帝時代からの旧臣が大半を占めておったのじゃ。まあ、だから儂のところに誘いがきたというのもあるのじゃろうが。それでアレクシスに話をしたところ、一気に反体制派を捕まえるための策を考えようということになってな、そこで考えたのが、現体制派の人間の中から裏切り者を出し、勢いづかせて蜂起したところを一網打尽に捕まえるという策なのじゃよ。」
「では、私とアンはその裏切り者の役だということですか。」
「そういうことじゃ。すでに計画は大分進んでおってな、二人が寝返ったら、マタイサのグラール侯爵と呼応してこの街を内外から攻める手はずになっている。」
「グラール侯ですか・・・あの方はそういう野心をもつようには思えないのだけど。」
 アリスが以前にグラールと会った時に抱いた印象を口にすると、アレクシスが「そうだな」とうなづいてから続けた。
「それについては、マタイサを探っていた人間から気になる報告があってね。どうやら叔父上は、叔母上と僕の従姉妹のユリアを人質に取られているらしいんだ。叔父上の裏切りが、この件のせいなら僕は三人を助けたい」
「私達のやっているのはゲームではないのよ。戦争をしている以上、多かれ少なかれ、皆事情はあるし、多少の犠牲が出るのはどうしようもないことです。大体、もしも本当に二人が捕まっていて、よしんば助けられたとしてもその後はどうするの?マタイサ軍の追っ手から二人を連れて逃げ切るのなんて不可能でしょう。」
「まあ、それに関しちゃ実績のある人間もいるし、なんとかなるわよ。とにかくこの作戦はトップシークレットよ。誰にも話さないようにね。」
 そう言ってアンドラーシュが自信ありげに笑った。